老犬と暮らす(3)同じ名をつけ注ぐ愛情 亡くした愛犬の「供養」に
一生背負っていきます
それからしばらく杉浦さんを見かけることはなかったが、夏前に新しい犬を迎えることになったと聞いた。先代のさつきを紹介した柴飼いのご近所さんが、別の保護団体がレスキューした黒柴(正確には柴系のミックス)を見つけ、杉浦さんに引き合わせたのだという。僕がその『2代目さつき』に初めて会ったのは、杉浦さん宅に来て1か月余りが過ぎたお盆休みの頃だ。紹介したご近所さんもある程度意識したのだと思う。毛色こそ違ったが、キツネと見間違えそうな細身で大きな耳がピンと立った姿と控えめな性格は、先代とそっくりだった。 2代目さつきは、推定7~9歳のメスで、40頭の多頭飼いが崩壊した現場から救助されたという。フィラリアと膝の脱臼という継続治療が必要な病歴が2つあり、体中にかゆみが出るアレルギー体質もある。「前のさつきは、ああいう死に方……いや、死なせ方をしてしまったから、供養のためと思ってね」。杉浦さんは、あえて手のかかるシニア犬を引き取り、同じ名前をつけてかわいがることが、先代の供養にもなると考えた。
「7月9日にうちに来て、その夜は30分くらい、ワンワンワン、ウォーンとすごい声で吠え続けていたよ。次の日からは5分くらいで済んだけどね」。最初は体中をかきむしっていたが、毎日薬を与えることでアレルギーをなんとか抑えている。迎えて3か月になろうとする今、最も困るのは、散歩だ。ドアを開けても出ようとしない。50メートルくらい抱えて行って下ろすと、やっとトコトコと歩き出す。恐らく、異常な多頭飼いの環境でネグレクトされていたため、散歩という習慣そのものが身についていないのだろう。 持病やアレルギーと付き合いながら、心のトラウマを少しずつ解きほぐしていく。先代のさつきと歩んだのと同じような道を、杉浦さんは再び歩み始めている。「あいつ(先代さつき)に頼まれているから。『私と同じように大事にしてあげてね』と」。今も、夜一人で床につくと「川に落ちなければ、(先代さつきは)今でもここにいただろうに」と考えて眠れなくなってしまう。「一生背負っていきますよ」と、杉浦さんは言う。 前の犬との関係に区切りをつけて、悲喜こもごもの思い出を胸に、新しいパートナーと関係を築くのも一つの供養の形だと僕は思う。杉浦さんはしかし、同じような境遇の犬を迎え、同じ名前をつけて愛情を注ぐことを供養の道に選んだ。考え方、状況は人それぞれだ。これまで別の名前をつけられていた2代目が、「さつき」という呼びかけに反応することはまだない。杉浦さんの新しいパートナーとの暮らしは、まだ始まったばかりだ。
《内村コースケ》 フォトジャーナリスト。新聞社を退職後、フリーになると同時にフレンチ・ブルドッグ『ゴースケ』(オス)を飼い始めたのをきっかけに、犬関連のフォトエッセイや取材・撮影が仕事の中心となる。ゴースケの1歳の誕生日に1歳年下の『マメ』(フレンチ・ブルドッグ/メス)を迎え、その後、マメについてきた迷い犬の老犬、『爺さん』を保護し、そのまま飼い続ける。爺さんは2010年1月に短い介護期間を経て老衰で死去、ゴースケは2014年10月に肺炎が悪化して11歳で急逝した。マメは2歳と7歳で2度大手術をしたが、11歳の今も元気