“1000年前の建物”パズルにして販売「無断使用」と訴えた寺院の主張は“無理筋”? 裁判の意外な結末とは
パズルになった建築物の社会的評価は低下するのか?
しかし、この理屈がムチャなのだ。冒頭述べた通り、1000年前の建物をパズルにするのにそもそも許諾など必要ない。法律上も社会常識的にもそうである。そうである以上、このパズルを見て、「平等院が許諾した商品だ」と思われること自体が考えられない。箱などにも、許諾を受けたような触れ込みはない。 一万歩譲って、許諾商品だと思うおっちょこちょいがいたとしても、綺麗な写真を使った穏当なパズルだし、そうした誤解によってもたらされる平等院の主観的な不愉快と、遥か昔に著作権が切れて共有財産となった素材を用いた経済活動の自由と、どちらが法的保護に値するかというと、それは後者というべきである。
不可思議な和解劇で事件は終結
というわけで、この事件、一から十まで無理筋な主張で、平等院の敗訴は確実と思われた。ところが、最終的には裁判は両者の和解で終結している。報道などを総合すると、主な和解内容は、以下の内容のようだ。 1.やのまんは本商品を新たに出荷しない。 2.すでに市場にある在庫はそのまま販売を継続する。 3.やのまんが保有する在庫は廃棄処分する。 4.その廃棄費用は平等院が負担する。 5.今後、やのまんは無許可で平等院の建物の写真などを使った商品を製造販売しない。 意外なことに、やのまんが在庫廃棄と今後の販売中止に合意したような格好なのである。当初全面的に争う姿勢を見せていたやのまんが、平等院側に大きく譲歩したように映る。しかし、おそらくやのまんは、損得勘定で和解に応じたのだと思われる。というのも、和解を受けてやのまんが発表したプレスリリースでは、以下の一文が強調されていたからだ。 裁判所が、平等院の主張を否定して「やのまんに違法⾏為がない」ことを⽂書で認めてくださったので、和解を受諾することとしました。 裁判所が「やのまんに違法行為がない」と認めたのであれば、それは「実質勝訴」ということだろう。そのまま判決に身を委ねれば、平等院の敗訴はまず間違いなかったはずなのだ。 にもかかわらず、あえてこの内容で和解したということは、やのまんとしては、たとえ勝訴したとしても、これ以上、商品を売り続けるメリットはないと判断したということではないか。つまり、和解時点で売れ行きが落ち着いていたと考えられるのだ。トレンドの移り変わりが激しい玩具業界では、あり得る話だ。在庫の廃棄費用を平等院に負担させているところから考えると、倉庫に余った在庫の処分を平等院に押し付けた方が得だという打算が働いたのかもしれない。
パズル業界はもっと堂々としていい
しかし、やのまんの判断に異議を唱えるつもりはないが、白黒はっきりさせずに和解を選択したことで、今後、パズル業界は、事業をやりにくくなったりはしないだろうか。 平等院は「無断で〔パズルで〕ばらばらにされ、つらい思いをした」などというが、せっかく多くのユーザーに楽しんでもらおうと企画開発したパズルを廃棄させられた、やのまんの社員の方こそ、つらい思いをしたに違いないのだ。二度とおもちゃメーカーの担当者がつらい思いをしないよう、実質的には、やのまんの勝訴であったことを、今一度強調しておきたい。
弁護士JP編集部