「ジェンダー本だと企画が通らない、マーケットがない」は本当か?幅允孝・選、あなただけの1冊に出会うライブラリー
知られていないのがもったいない。本と出会うための場所
幅允孝さん(以下、幅): 出版クラブさんから「エントランスロビーをライブラリーにしたい」というお話をいただいたのは8年くらい前です。アーカイブとしてはそれほど多くの本を置ける場所ではないので、集まった本を独自分類し、この空間に相応しいように配架する作業をやらせていただきました。今の「クラブライブラリー」は2018年に出版クラブがこの場所に移転した時に、新しいビルの顔として新設したもの。螺旋階段で登る階上は特別な時に入れるアーカイブとして、階下は手に取りやすい小さなエキシビションをやりましょうという感じで、2~3ヵ月に一度内容を変えて展示しています。 大森葉子(以下、大森):実際に足を運んだのは今日が初めてなんですが、素敵ですよね。こんな駅近で、真夏は涼めるしコーヒーも無料で飲めるし、知られていないのがもったいない。関係者しか入れない雰囲気があるからでしょうか。 幅:「コロナ禍も関係し、人がどんどん来ちゃったら……」と心配しながらつくったら、そうなってしまったそうです。本を手に取る人や時間が減っている今の時代、ふらっと気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたいですよね。気づいたら本を読んでいたという心地よい環境が大事ですから。 大森:幅さんが選書している「小さな展覧会」も魅力ですよね。 幅:心に刺さって抜けなくなるような1冊に出会ってもらうことも、この場所の目的です。ライブラリー委員会の方々と一緒に、毎回テーマを絞り、冊数もそこまで多くせず、コメントなども添えながらやっています。
人間って毎日背筋をピンと伸ばしてはいられない
大森:今回の「ジェンダー関連本」については、私もちょっとだけ参加させていただきました。私は今は『VOCE』という編集部にいるんですが、机にジェンダー関連の本がすごく並んでいるんですね。それを見た今回の展覧会の神保編集長から「興味があるなら、おすすめを推薦して」と誘われまして。 幅:実はジェンダー関連の選書をしてほしいという依頼はすごく増えているんですよね。タイトルの数も増えていますし、表現形態のバリエーションも論文的なものからマンガや絵本まで広がり、問題意識も広く社会に共有されるようになっていますから、昔よりは選びやすいですね。ただ人間の根幹に関わるセンシティブな部分でもあり、不用意な提示の仕方をすれば誰かを傷つけてしまうリスクもあります。自分の思い込みや偏りに陥らないようスタッフの手も借りながら、様々な角度から光が当てられるよう丁寧に選びました。 大森:幅さんの選書は私も読んでいる本が多かったです。そのうえで長くエンタメに関わってきた私が推薦したのは「それっぽく見えない本」という感じでしょうか。あまり啓蒙的なものだと興味のある人しか読んでくれないというのは、mi-molletのようなweb媒体を経験するとPVという形でダイレクトに痛感させられます。セルフケアとしてのメンズ美容のマンガ『僕はメイクしてみることにした』を作ったのも、その視点で。 幅:おっしゃることわかります。私たちが絵本などを選んだのもそういう視点で。やっぱり人間って毎日背筋をピンと伸ばしてはいられないし、そうでない時にもすっと入っていけるようなもの、というか。 初めてのジェンダー本としてもいいですよね。そこで問題意識に目覚めたら、少し専門的なものに進んでいただけたらな、と。
幅 允孝,大森 葉子