箱根駅伝2025 國學院大「史上最強」の布陣で挑む初の総合優勝 前田康弘監督が「復路」をカギに挙げる理由
【復路を走れば、『攻撃の駒になれるから、逆に目立つぞ』】 準エースと言えるスピード自慢のランナーたちは、高いモチベーションを持って復路も視野に入れている。舞台裏では前田監督が選手たちをうまくたきつけていたようだ。 「復路を走れば、『攻撃の駒になれるから、逆に目立つぞ』と言ってきました。うちの選手たちは『それなら、やりますよ』、『区間新を出します』というタイプばかりなので(笑)」 指揮官は選手たちに信頼を置きつつも、最悪のケースも考えて戦略を練っている。山下りの6区は前回区間10位の後村光星(2年)らが準備しているものの、ライバルの動向を含めて読めない部分があるという。 「仮に遅れたときのパターンも想定すれば、7区は"返し"の区間として重要になってきます。ここでしっかり取り返せないといけない。例年の青山学院さん、前回の駒澤さんの配置を見ても復路前半の7区に力のある選手を置いています。ここで逃げられてしまうと、追いつけなくなります。そう考えれば、キーとなる区間になってきますよね」 あらゆる展開を想定し、復路から追い上げる計算も立てていた。2日目に主力を複数人配置するパターンの場合、1日目を終えた時点で先頭と2分差、ピンポイントで『攻めの駒』を置く場合は1分半差であれば、逆転可能と踏んでいる。 「青山学院さんの得意な逃げきりを封じたいですね」 策士の46歳は、最終盤までもつれこむケースまで考えている。復路の後半には単独走に強い高山豪起(3年)ら経験者たちがそろう。前回大会の9区で区間7位の吉田蔵之介(2年)も、同区間と10区を見据えて調整しているひとりだ。吉田はメンバー選考レースの上尾ハーフマラソンで思うように走れず、一時は箱根路が遠ざかりかけたという。 「上尾では人生で最も悔しい思いをして、一番涙を流しました。前田監督にはレースのあと、監督室に呼ばれて、『ここで終わる選手じゃないだろ。この結果はお前じゃないと思っている』と言われたんです。監督も泣いて、僕も大号泣して......」 それでも、最後に挽回のチャンスは残されていた。上尾ハーフから2週間後、前田監督が重視する単独走の学内トライアルでチーム上位に食い込み、土壇場で信頼をつかみ取った。前半シーズンは故障に苦しみ、夏合宿も不参加。苦難を乗り越えて挑む2年目の大舞台である。懸ける思いは人一倍強い。 「前田さんからも『復路勝負』と聞いています。重圧はありますが、苦しんだ分、楽しみながら自分の走りをしていきたい。上尾のあと、平林さんにも言われました。『守る者に勝ち(価値)はない。攻める者に勝ち(価値)がある』って。それで目が覚めました。この言葉は、いまも部屋の壁に貼っているんです。前回は攻めの走りができなったので、今回は序盤から攻めて、攻めて、区間賞を取ります」 出雲駅伝、全日本大学駅伝でもつなぎ区間で流れを引き寄せ、アンカー対決で勝負を決めてきた。箱根駅伝の見せ場も、終盤にあるのか――。前田監督は、大勝負を前に胸を弾ませていた。 「スポーツの醍醐味は、どちらかが勝つかのわからないところ」 過去3大会を振り返ると、往路から独走した青山学院大、駒澤大が総合優勝を飾っている。ただ、そればかりでは面白くないという。新たな一歩を踏み出す101回大会では、國學院がドラマチックな駅伝で時代の流れを変えるつもりだ。
杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki