ついに「勝ち戦」が始まる…世界がトヨタのハイブリッド車を超えるクルマを生み出せなかった納得の理由
欧州自動車メーカーの苦悩
2030年までに新車ラインナップをすべてBEV(電気自動車)にするという目標を掲げていたボルボ。2024年9月に2030年までに世界販売台数の90~100%を電動車とすることを目指すとこれまでの目標よりトーンダウンした。 【写真】レクサスLXが盗難されるまでの衝撃写真 ボルボのいう電動車というのは、BEVとPHEV(プラグインハイブリッド)を合わせたもので、残りの10%は、必要に応じて限られた数のマイルドハイブリッドモデルを販売するという。つまり市場環境や需要の変化により、電動化の目標を調整。その結果エンジンを廃止することはできなくなった。 全BEV化への道筋を変更したのはボルボだけではない。2024年2月の2023年12月通期の決算会見において、メルセデス・ベンツグループは、2021年に宣言した2030年までに全販売車種をBEVにするということを撤回。 2030年代もPHEVなどエンジンを搭載した電動車を販売。また各地域の排ガス規制に対応するため新しいエンジン開発も行っているのだ。 これは2023年から続いているBEV需要の減速により、BEVシフトを急速に進めてきた欧州自動車メーカーは戦略の見直しを余儀なくされているのだ。また、BEVの需要の減速もあるが、韓国のヒョンデや中国のBYDといった新興勢力が低価格BEVを開発し市場に投入していること。そしてウクライナ侵攻によるエネルギー供給の不安定さという様々な影響が考えられる。 その一方で国産メーカーでは、2024年9月にトヨタとBMWが水素社会実現に向けた協力関係を強化すると発表された。乗用車での燃料電池自動車のラインアップ拡大を見据え、第3世代の燃料電池システムを共同開発、インフラ整備も推進するという。すでにトヨタは2023年5月に日野、三菱ふそう、ダイムラーと商業車における水素社会実現にむけた協業を開始しているのだ。
勝ち戦が始まる
これまでトヨタは“マルチパスウェイ”という言葉を使ってきた。これは、自動車業界が取り組んでみるカーボンニュートラルを実現するための手段は、BEV1本ではない。水素を燃料とする燃料電池車(FCHV)、エンジン車、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)。そして水素エンジン車など様々なパワーソースをその地域にマッチしたモノを組み合わせて使用することが、カーボンニュートラルへの近道となるという考え方なのだ。 このトヨタの全方位戦略とも言えるマルチパスウェイが、現在は見事に的中していると言える。良くトヨタはBEVが遅れているという言葉を耳にするが、実際はそうではない。ご存じの方も多いと思うが、2019年にはBYDとBEVの研究開発会社を合弁で設立することに合意し、翌2020年には「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー有限会社」が発足。 そして2022年10月にはトヨタのBEVシリーズ第2弾となる「トヨタbZ3」をBYDとの合弁会社と1汽トヨタ自動車有限会社と共同開発。そして2024年4月の北京モーターショーには新型BEV「bZ3C」、「bZ3X]を世界初公開するなど、中国市場においては積極的に新型車を投入しているのだ。 一方、北米では燃費性能の優れたトヨタのハイブリッド車が右肩上がりで販売台数が伸びている。規制の厳しいカルフォルニア州では、BEVの販売も好調なようだが、全土に目を向ければ圧倒的に売れているのはハイブリッド車だ。 欧州の自動車メーカーは、燃費性能に優れたトヨタのハイブリッド車を超えるクルマが作れず、その対向措置としてBEV戦略を進めてきた。しかしBEVは充電器などのインフラ整備が必要なうえ、最近では改善されているが走行距離の短さ。そして高価格というユーザーにとって厳しい面が多い。 また価格面においては、バッテリーも自社で開発しているヒョンデやBYDが低価格路線のBEVを展開したため、一気にそのマーケットを失ってしまったということだ。 その結果、マルチパスウェイを掲げ、エンジン車、HEV、PHEV、FCHVそしてBEVと様々なパワートレイン車を展開しているトヨタの戦略が正しかったということが明らかとなったのだ。そのトヨタも2026年には新開発のバッテリーを搭載する新世代BEVを販売開始すると2023年に開催された東京モーターショーで発表している。 つまり、トヨタはパワートレインの技術の進捗状況やインフラの整備などを俯瞰して、それぞれのパワーソースの開発に注力しているということなのだ。水素の面ではBMWをパートナーとして迎え、BEVはすでにBYDと提携を結んでいる。トヨタが新世代のBEVやFCHVを発売する時はまさに機が熟した時で、勝ち戦になるということだ。
萩原 文博(自動車ライター)