タヒチ島で四駆に立ち乗りして「鼻吹きオヤジ」の謎を解く【「海外書き人クラブ」お世話係・柳沢有紀夫の世界は愉快!】
橋のない川を渡り、いよいよ秘境へ
そして四輪駆動車は川の手前で停まります。そしてその川には橋がない! 同乗のツアー客たちは「えっ? マジ?」「本気でここを渡るのか?」「ヤバいでしょ、絶対に」などなど慌てふためいています、たぶん。フランス語なので推測しかできませんが。 でも私は【オーストラリア・アーネムランド旅vol.1】でも橋のない川を経験しているので慣れたものです。 橋なんていうやわなものではなく堰を越えたところから冒険は始まるのです! 橋ではなく堰を越えるから秘境なんです! …ちょっと勢いで言ってみました。 1号車を運転していたティーバが車外に出てきました。アーネムランドでは「ワニ注意」の看板があったのでちょっと心配になりましたが、タヒチにはあの猛獣はいません。 代わりに餌を撒いたらウヨウヨ集まってきたのは…なんと丸々と太った巨大ウナギです! ポリネシアではウナギは「神の使いの神聖な生き物」とされているので食べないのだそうです。 堰を渡ってさらに奥地に進みます。しばらくするとまた車を停止。ちょうど雨が少し小降りになっていて、みんなも外に出て、道路からそれて数十メートル歩きます。 そしてやってきたのがこんな場所。 石だけが並んでいました。ああ、壁や柱や屋根はこの島々の文化を否定したという宣教師たちによって破壊されたのか。それで土台となる石だけがかろうじて残されたのか。そんな感傷に勝手にふけっていたのですが…「マラエ」にはもともと壁も屋根もないとのことです。
鼻息で笛を吹く深い理由
ここでティーバが取り出したのが例の笛です。「一見普通の笛ですが、ポリネシアのは世界の他の地域とはまったく違う特徴があります。なんだかわかりますか?」 私は素材か何かかなあと思っていたのですが、ティーバは「ポリネシアでは笛はこうやって吹くんです」。 ではなぜ鼻で吹くのか。ティーバこう説明してくれました。「口は悪口を言ったりけんかをしたり、悪いことに使うものですよね。だから聖なる音楽を奏でるのにふさわしくないんです」 仲のいい友だちやガールフレンドにひどいことを言ってしまった過去を思い出して、ちょっとウルッとなりかけました。日本では「口は災いのもと」と言いますよね。 次に披露してくれたのが「ほら貝」です。遠くまで音が響くので、離れた場所に住む部族間の交易の際の通信手段に使っていたとのこと。だけど一つ疑問が。 「ほら貝の音程は一つだし、息をたくさん吹き込まないと音が出ないからリズムを作るのもむずかしそうですよね? 一体どういうことを伝えることができたんですか?」と質問してみました。するとティーバの回答は。 「確かに複雑なコミュニケーションは無理でシンプルなことしか伝えられません。1回吹くとここにいるという意味で、2回だとここで会おうという意味です」。なるほど。「そして3回だと、5時からアルコール半額のハッピーアワーが始まるよという意味です」。 …真面目な顔してギャグをぶっこむのはやめてくれ~。 もうひとつティーバから聞いておもしろいなと思った話。それはほんの20~30年前まで本国フランスの政府がポリネシア伝統の入れ墨を「野蛮だ」と禁止していたというもの。 「それが今じゃ世界中で人気のファッションアイテムになっているんですからね」。冗談めかした口調ですが、怒りを隠しているように感じられました。 さてこれで探検は終わり。そして来た道を戻り、海沿いに出た途端晴天になりました。ツイてないとも言えますが、これもまた旅。 まあ、そんなわけで天気もめまぐるしく変わるわ、フランス人ばかりのチームに飛び込むわで、波乱万丈のうちにタヒチ旅が始まりました。 だけど宿に帰ってきてから一つ疑問が。ねえ、ティーバ。口は悪いことに使うから鼻で笛を吹くっていったよね? じゃあなんでほら貝は「口」で吹くの? 今回の「TAHITI DISCOVERY」ツアーに関する日本語での手配問い合わせ先(ただしツアーそのものは日本語非対応):タヒチ・ヌイ・トラベル 私が書きました! オーストラリア在住ライター (海外書き人クラブ)柳沢有紀夫 1999年からオーストラリア・ブリスベン在住に在住。オーストラリア関連の書籍以外にも『値段から世界が見える!』(朝日新書)、『ニッポン人はホントに「世界の嫌われ者」なのか?』(新潮文庫)、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)、『世界ノ怖イ話』(角川つばさ文庫)など著作も多数。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」のお世話係。
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