【鹿児島・沖縄の糖業―迫られる変革】 人確保へ、あの手この手 競争激化必至、同業者も
鹿児島、沖縄両県の製糖業の原料は冬場に糖度が上がるサトウキビ。その特性に合わせる形で、収穫から製品(粗糖、黒糖)の製造・出荷まで一連の作業が3~4カ月続く。工場はキビの搾りかすを熱源とするボイラー発電で24時間操業だ。 2024年度から適用された残業時間の上限規制。製糖業で多い1日12時間勤務2交代制の工場は▽単月で100時間未満▽複数月平均80時間以内―という基準クリアを迫られた。1日8時間勤務の3交代でも、休日出勤やシフトチェンジでの延長勤務などで、月残業は50~60時間程度ある。 どう対応するか。選択肢はいくつかある。①季節工を含め従業員の全体数を増やして、3交代制へ移行②2交代制を維持しつつも、全体数を増やして1人当たりの休み日を増やす③全体数は増やさず、製糖期間を延長して工場の休業日を増やす④工場の自動化・省力化で必要人員を抑える―などがある。 沖縄の場合、従来からの3交代は本島のゆがふ製糖(うるま市)のみ。取材では、新たに7工場が3交代への移行を目指すとしているが、確定しているのは大東糖業(南大東島)と石垣島製糖(石垣島)のみだった。「3直2交代」との方針で準備している工場も、多くは今後の採用状況次第という。 西表糖業(西表島)は「社員は2交代、季節工は3交代とする方向だが、社会保険労務士などと調整中。最終的には人の集まり具合による」という。 波照間製糖(波照間島)は「3直2交代で上限内に収まるような体制を目指す。そのためにも季節工の増員が必要だ」。同社の場合、季節工は前期50人で、来期は70人の採用を目指す。「製糖関係は一斉に募集が始まるので条件面を含め競争が厳しくなるだろう。正直やってみないと分からない」と担当者。 操業期間延長の可能性を尋ねると、両社担当者は「黒糖の質は、キビの質の影響が大きい。延長すればコストもかかるため、延ばすことは考えていない」(西表)、「期間延長は難しい。季節工はみな島外からで、次の働き先が決まっている人がほとんど。工場の稼働効率も悪くなる」(波照間)と即答した。 大東糖業は前期から3交代に移行済み。3交代にすると(残業減で手取りが減る)季節工の採用が難しくなると見越し、23年度に社員を10人増やした。前期は社員53人、季節工49人(うち外国人5人)で操業した。 担当役員は「退職者もおり、勤務シフトを完全に埋めるまでには至らなかった。引き続き社員を募集していく」。増員した社員10人は全員島外者で平均年齢30歳前後。社宅があり、引っ越し費用や家電購入費の補助制度も設けたという。 石垣島製糖は前期から3交代へ移行した。採用した季節工は十数人。残業規制をクリアするめどはついたが、初めて島内だけでは季節工が充足できず派遣会社を利用した。島外人材採用に伴って、宿舎として民宿を初めて借り上げた。 ゆがふ製糖は本島唯一の大型製糖会社。2015年、琉陽製糖と翔南製糖が合併して誕生した。社員72人。従来から3交代で、前期は季節工を56人(全員島内)採用した。 懸念事項はないのか。採用を担当する管理部の久銘次直樹次長がまず挙げたのは、本島内で製糖産業の存在感と社のネームバリューの弱まり。観光をはじめとするサービス産業の豊富な話題との対比も。今年の夏には南部に大型スーパー・コストコ、来年は北部に大型テーマパークJUNGLIA(ジャングリア)が開業する。両施設のバイト時給は1500円。久銘次・次長は「沖縄も人が減っていくことが想定される。若者をどう引き付けるかも課題。待遇面とか、より魅力ある職場づくりを進めなければならない」