大いなる山 Mt.デナリ・カシンリッジへの挑戦 出発編|#2
大いなる山 Mt.デナリ・カシンリッジへの挑戦 出発編|#2
北米大陸最高峰、デナリ(標高6、190m)。7大陸最高峰のひとつに数えられ、その難易度はエベレスト登山より高いという声もある。 高所登山としての難しさだけでなく、自身による荷揚げ(ポーター不在)、トレイルヘッドからの比高の高さ、北極圏に近い環境など、複合的要素が絡み、登頂成功率(※2023年度)は30%前後。 そんなデナリへ初めて挑んだ、山岳ガイドの山行を振り返る。 文・写真◉佐藤勇介 編集◉PEAKS編集部。 \ #1はこちら / 。
常夏の島から北の果てへ
2024年5月16日。成田空港の片隅に90ℓのザックと120ℓのダッフルバックいっぱいに詰め込んだ荷物を担いだ男たちが3人集まった。少しでもオーバーチャージを取られないように厳密に重さを計り、荷物を仕分ける。 結局、3人の荷物の総重量は150kgを超えていた。これに現地で食糧と燃料を追加することを思うと、気が遠くなる。 なるべく安いエアチケットを求めた結果、ハワイ経由でアラスカ・アンカレッジに行くこととなった。トランジットは14時間。一度、出国して再度国内線に乗りなおすため安いらしい。 「極寒のデナリに行く前に常夏のハワイではじけるのも一興」とほくそ笑みつつ、ホノルル空港を出ると外は土砂降りの雨。人生思いどおりには行かないものだ。 憧れのワイキキビーチの夢は破れ、不毛な時間を潰してアンカレッジ行きの国内線の飛行機に乗る。ようやくたどり着いたアンカレッジはどんよりとした空でうすら寒く、どこか寂しさの漂う街だった。 アンカレッジのゲストハウスに荷物を預け、3週間分の食糧を調達する。アメリカのスーパーは広大で品揃えも豊富、ただし日本のように小分けで売ってないのが難点だ。 ハイカロリーなものが多く、山に入る身には有難いが、ここに住むとなると肥満体まっしぐらなのだろう。実際、街の人々は豊満な体型の人が多くを占めていた。健康に配慮された食糧は少量で高級なものばかり。ここではお金がないと健康も買うことができないようだ。 ひき肉をたくさん買って山のなかでいろいろな料理に使えるぺミカンを作ることにした。ぺミカンとはアメリカの先住民が考案したもので、下ごしらえした野菜や肉をラードなどで固めた保存食。高カロリーでさまざまな料理に使うことができる便利なものだ。デナリ登山にはうってつけと言える。 そして、この日は私自身の45歳の誕生日。自らケーキを買って同宿の人々にバースデーソングを歌って祝ってもらった。