競馬の損失をオンラインカジノで埋める……ギャンブル依存症男性が陥った“負のスパイラル”とは
そしてオンラインカジノに
もう、パチスロにも競馬にもうんざりだった。そして、以前と同じ自問自答をした。「競馬以外に、儲かるギャンブルはないのか?」 結果が出るまで時間がかかりすぎる株投資では、とても次の利子返済には間に合わない。非合法の「闇カジノ」の存在は耳にしていたが、万が一、自分が客として店にいるときに、警察の家宅捜索(ガサ入れ)にでも当たったら、社会人としての身分は終わるかもしれない。半グレ未満に痛い目にあわされた経験からも、非合法の賭場の背後に反社会的組織、つまり暴力団の影がちらつくことへの恐怖心もあった。 だったら、オンラインのカジノならどうか。 一般的な市民感覚からすれば、民間が開催しているギャンブルなのだから、法的に「クロ」になりそうだが、ネットで情報を集めた結果、「灰色に近いシロ」とのことだった。どうやら、摘発されて、罪に問われることはなさそうだ。 あらためてネットで検索したら、いくつかのカジノサイトが見つかった。掲示板のクチコミを参考にしながら、日本人利用者の人気が高そうなところに試しに登録してみた。運営本体は中米コスタリカにあり、欧州マルタ島から公式ライセンスを受けた大手オンラインカジノとの触れ込みだった。初登録者にはボーナスポイントが付与されたので、無料でルーレットやブラックジャック、それにバカラなどを試してみた。 スマホの画面を通しているにもかかわらず、勝負は楽しかった。ギャンブルならではのピリピリとした空気が小さな液晶越しに肌を刺し、脳内にドーパミンが充満してくるのを感じた。幸運の波をつかまえて勝ち続けたり、ツキに見放されてまったく勝てなくなったりなどの、賭け事につきもののアップダウンも普通にあり、現実のカジノさながらの興奮があった。 いわゆる「イカサマ賭博」にありがちな、最初は客に勝たせて、後で根こそぎ回収される(ぼったくられる)「仕込み」への疑心暗鬼も頭の隅にあったが、それも徐々に消えていった。どうやら、かなりフェアに運営されているようだ。顧客が世界中にいる「グローバルなカジノサイト」と認識されていることも、セイタに安心と勇気を与えた。 24時間、いつでも、どこにいてもスマホ一つで参加できる。その手軽さ、自由さは競馬以上で、まさにセイタが探していたギャンブルだった。次の給料が入ると、消費者金融に支払う利子を除いて、大部分をカジノ口座に預け入れた。 さすがにセイタの頭のなかでも、これがギャンブルならではの「ハニートラップ」であることを告げるアラートが小さく鳴っていた。にもかかわらず、これまで味わわされてきた痛みのシグナルは、スマホ越しに見え隠れする報酬期待の前にかき消されていた。