幸四郎と松也のダブルキャストで、劇団☆新感線の伝説の舞台が歌舞伎として蘇る
歌舞伎と劇団☆新感線の作品が融合した歌舞伎NEXT『阿弖流為〈アテルイ〉』から9年。待望の第二弾が立ち上がる。演目は、脚本・中島かずき、演出・いのうえひでのり、主演・松本幸四郎(当時市川染五郎)で17年前に上演され、“いのうえ歌舞伎”の中でも名作と語り継がれてきた『朧の森に棲む鬼』。主演は、初演に引き続いての幸四郎と、歌舞伎NEXT初挑戦となる尾上松也がダブルキャストで勤める。歌舞伎の新たなるステージを目指して命名された歌舞伎NEXT。幸四郎と松也がどんな歌舞伎の未来を見せるか。 【全ての写真】尾上松也、松本幸四郎の撮り下ろしカット
こんなに怖いものを観たことがないと興奮してくださる世界を
──歌舞伎NEXTが第一弾の『阿弖流為』でスタートしたのが9年前。幸四郎さんには立ち上がったときの思いを、そのとき出演できなかった松也さんには当時どう感じておられたのかをお聞かせください。 幸四郎 これまでに何度か劇団☆新感線さんの作品に出演してきて、その中で次にどんな展開があるだろうと考えたときに、今度は逆に歌舞伎の世界のほうに来ていただけないかと思ったんです。歌舞伎と新感線のあの世界観が混ざり合ったら何が生まれるか。そこをテーマにスタートしました。演出のいのうえひでのりさんも、新感線でのいつもの演出のようにしっかり絵を作られたうえで、「ここは歌舞伎だったらどういう表現法がありますか」と聞いてくださって。我々もそれに応えていって、毎日何か新しいものが生まれていくという稽古でした。 松也 そもそも劇団☆新感線さんの作品には、幸四郎さんがご出演される前から歌舞伎へのリスペクトが感じられる場面や演出がたくさんありましたので。まず、幸四郎さんが新感線に出られたときに、歌舞伎俳優が演じたらこうなるぞというお手本みたいな表現が観られるぞと思って拝見していたんです。それが歌舞伎NEXTでいよいよ本当に歌舞伎俳優だけで上演するとなったときには、もちろん参加したいという気持ちがありましたが、別の公演がすでに決まっていて出演できず。とにかく悔しかったというのが一番でした。 ──今回の第二弾『朧の森に棲む鬼』で松也さんもようやく参加できることになりましたね。新感線では2007年に上演され、幸四郎さんが主演された作品ですが、改めてその面白さはどこにあると思われていますか。 幸四郎 主人公のライというのは悪に染まりまくった男で、嘘をつき、騙して、ほしいものを手に入れていくんです。その姿は怖くもあり、怪しくもあり、刺激的でもあり、快感でもある。だから、その悪の生き様にどっぷり浸って、こんなに怖いものを観たことがないと興奮してくださる世界を目指したいと思っています。 松也 ライが駆け上がって堕ちていくそのスピード感とスケールの大きさは、『リチャード三世』が下地にあるとはいえ、他にはなかなかないものだと思います。その成長と堕落のどちらの要素もあるのが面白いところですし、それに加えて悪の面も、実は誰しも共感できる部分があると思うんです。 幸四郎 企んだことがすべて上手くいくというのは、やはり興奮しますよね。口先で人を自分の思い通りにしていき、さらに強力な剣も手に入れているのでもう怖いものがない。だから、演じるうえでは改めて、喋ること、強い体を作ること、という基本的な訓練をして臨みたいです。とにかく、17年前に新感線さんで演じたものは忘れて、一から挑戦するつもりです。 松也 僕はもう、いつも以上に内面からその世界に陥る感覚にならなければいけないなと思いますね。ライの野性的な狂気に、いかに自分が俳優として人間として興奮できるか。それが幸四郎さんのおっしゃるお客さまの興奮につながっていく気がします。もちろん立廻りなどいろいろな仕掛けからでも迫力や興奮は伝わると思うのですが、そこに至るまでをまず自分で作って、お客様に悪の世界に没入していただけるよう努めたいと思います。 ──今回のダブルキャストには趣向があって、おふたりは、ライを演じない回では、ライと敵対するサダミツ役で登場されます。二役を演じることについて、現段階で何か思うところはありますか。 幸四郎 サダミツとしてライと対峙することで、ライを演じることに影響がないわけないでしょうね。 松也 敵対する役という意味では、二役を演じるのにちょうどいいかもしれないですね。(市川)猿弥さんが演じられるマダレも、遊べる役どころですので挑戦してみたかったですけど。ですが、サダミツも面白いことができそうな気がします。初演で演じていらっしゃった小須田康人さんがすごい表情をしてらっしゃって(と、口を大きく開けて顔を歪める)。 幸四郎 (笑)。 松也 あの顔が大好きなので、歌舞伎的に正面切ってやりたいなと(笑)。いのうえさんの演出によってどうなるかわかりませんが。