ブラザー工業にはローランドDGのMBOは青天の霹靂…TOB提案「3度目の正直」もあえなく破れる(有森隆)
【企業深層研究】ブラザー工業(下) ブラザー工業によるローランドディー.ジー.(DG)への対抗TOB(株式公開買い付け)は、事業会社が投資ファンドに噛みつくという異例の展開となった。 政倫審「みんなでサボれば怖くない」…自民・参院裏金議員が全員欠席の言語道断 ブラザーが“同意なき買収”に踏み切った背景にはペーパーレス化の進行で、稼ぎ頭のプリンター製品の成長が見込めなくなったという危機感がある。ブラザーには祖業のミシン、プリンターに続き、産業用印刷を第3の柱に育て、生き残りを図る狙いが読み取れる。 ブラザーの2024年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売り上げにあたる売上収益が前期比0.9%増の8229億円、純利益は同19%減の316億円だった。 世界的なミシンメーカーとして知られる会社だが、現在では、売り上げの過半を占める家庭用インクジェットプリンターなどプリンター関連が主力。24年3月期のプリンター関連の売上収益は5149億円。全売り上げの62%となる。 一方、ローランドDGは産業用印刷の分野で広告看板向けの大型インクジェットプリンターで強みを持っている。Tシャツなどの布に印刷するガーメントプリンターも扱っており、23年12月期の全売上高は540億円だった。 ブラザーはこれまでに2度、ローランドDGにTOBを提案して拒否されている。1度目は23年9月。1株4800円でオファーした。2度目は24年2月。同4850円。ローランドDGはいずれも歯牙にもかけなかった。 そして、3度目の正直も「ローランドDGの経営陣とは信頼関係を築くことは難しいと判断した」(ブラザーの佐々木一郎社長)。これが事実上のギブアップ宣言となった。
事実上のTOBの断念
ブラザーとローランドDGの攻防のさなか、投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズがMBOを前提としたローランドDGのTOBを2月13日から始めると公表した。1株あたり5035円。ローランドDGを上場廃止にして、ブラザーによる乗っ取りを防ぐのが狙いだった。 ブラザーにとってローランドDGのMBOは青天の霹靂だった。事前の告知はまったくなしだった。 ならばと、ブラザーは“同意なき買収”に踏み切った。タイヨウの提案を上回る1株5200円で対抗TOBを行うと通告した。 タイヨウは4月26日にTOB価格を5370円に引き上げ、期間を5月15日まで延長した。 ブラザーは15年3月、ロンドン証券取引所に上場する産業用印刷機大手、英ドミノ・プリンティング・サイエンシズを買収した。買収額は10億3000万ポンド(約1890億円)でブラザーとしては過去最大の案件だった。 ドミノ社の24年3月期の売上収益は1091億円。実質的な営業利益は56億円の見込み。買収前には100億円近くあった営業利益は大きく目減りしている。ドミノ社の買収は成功とは言い難かった。 ドミノを傘下に収めることを決めたのは当時社長だった小池利和・現会長だ。ローランドDGのTOBでも陣頭指揮を執ってきた。 ローランドDGの株価は上昇している。2月にファンドがTOBを公表する前には3800円台だったが5月7日の終値は5600円。一時、5640円と年初来高値を更新した。 ローランドDGのMBOに決着がつくまでに一波乱、二波乱ありそうだとみられてきたが、急転直下、5月9日、ブラザーはTOB価格を引き上げないと発表。「事実上のTOBの断念」(M&Aに詳しいアナリスト)と受け止められている。 次は、どこをM&Aのターゲットにするのかと同時にM&A路線を進めてきた小池会長の責任問題が浮上してくる。 (有森隆/経済ジャーナリスト)