「命に別条はない」の本当の意味、わかりますか--意識はある?ない?ニュースでよく聞く言葉の裏側
現実の世界は、フィクションに比べれば地味なものです。警察官が銃を抜くことはめったにありませんし、まして警察と容疑者の銃撃戦など、平和な日本ではないに等しいといえるでしょう。捜査員が警察署で捜査の“秘中の秘”を教えてくれたりすることもほとんどありません。 しかし、捜査を進め、容疑者を追いつめていくプロセスでは、実に繊細でスリリングなドラマが展開しています。(「はじめに」より) ここでは、著者ならではの経験に基づく“なかなか聞けない事件報道についての疑問”に焦点を当ててみることにしよう。
■「容疑をほのめかす供述」とは? ニュースなどの報道では、「〇〇容疑者は容疑をほのめかす供述をしています」というような表現が用いられることがある。しかし実際のところ、それだけでは「認めているのか、いないのか」がはっきりしない。だから情報の受け手はモヤモヤしてしまうわけだが、この点については「供述調書」がカギになっているのだという。 たとえば、以下がひとつの例だ。 あなたが仮に犯罪の嫌疑をかけられて、警察に逮捕されてしまったとしましょう。
「おい、お前、やったのか正直に言え」と刑事はあなたを責め立てます。実は会社の上層部が関与しているとあなたは知っているのですが、それをしゃべってしまったら解雇されてしまうかもしれない。しかし、目の前にいる刑事はさっきからバンバン机を叩いて追及してくるし、証拠も握っているようだ。どうしよう、もう楽になりたい……。 あなたは一計を案じます。「そうだ、ここは認めてしまって、あとで『本当はこういうことでした』と言い訳すればいいや」。
「やりました。ええ、私がやりました」 「じゃあ、誰に頼まれてやったんだ」 「いや、それはわかりませんねえ」 「詳しく話せ」(61~62ページより) 警察からすれば、単に「やりました」といわれただけでは、自白をしたことにはならない。そこで、こういった場合、対外的には「容疑をほのめかす供述」と発表することになるというのだ。 ■容疑者の「自称」とは? なお、ほのめかしに関連するが、逮捕のニュースで「自称・不動産業の〇〇は……」というように報じられることも少なくない。この「自称」にもどこか曖昧な印象があるが、それも警察なりの事情が関係しているのだそうだ。