公取委の異例対応で際立つ損保大手の悪しき体質、いまだにくすぶる500超のカルテル疑義事案
にもかかわらず、喉元を過ぎて熱さを忘れたかのように、損保大手4社は多岐にわたる分野でカルテルや談合を働いていた。 ■「付ける薬がないような状態」(金融庁幹部) まさに「付ける薬がないような状態」(金融庁幹部)にあって、「法令順守の外形的な内部規律を改めるだけでなく、魂を入れて規律を守るという意識」(大胡局長)を持てというメッセージが、異例の対応には込められている。 2つ目の理由は、危機感の薄さだ。
東急をめぐるカルテル事案の発覚をきっかけに、各社が独禁法違反の疑義があるとして申告した案件は、合計で600先にも上る。そのすべてを公取委が審査し処分の有無を決めるのは、膨大な作業量と時間が必要になるため、ほぼ不可能だ。そのため、公取委は事案の悪質性などを踏まえて9つの案件を取り上げ、厳しい処分を下すことで一つの区切りをつけている。 一方で、損保側にしてみれば600もの疑義案件を申告しながら、たった9つの案件での処分にとどまった。
そのことで危機感が薄れ、気を良くしたのか、一部の損保は公取委に対して「排除措置命令をなしとする方向にできないかと主張し始めた」と、複数の関係者は明かす。 損保側としては、電力カルテル問題で主導的な役回りを演じながら、自主申告による課徴金減免制度(リーニエンシー)を利用し、独禁法上の処分なしとなった関西電力の事例が念頭にあったとみられる。 独禁法上の広範な審査が、人的・時間的制約上難しいことを逆手にとり、自分たちが犯した法令違反を矮小化するような損保の言動が、公取委の職員たちを刺激したであろうことは想像に難くない。
公取委のある幹部は、経済活動の「インフラ」を担い「社会的な影響が大きい損保が、ここまでの違反行為をしていたことの責任は非常に重い。一部案件でリーニエンシーを利用したからといって、責任や問題の大きさを考えれば、排除措置命令を出さないという選択肢はなかった」と話す。 ■「調査を終結させたとは考えていない」(公取委幹部) さらに別の公取委幹部は、「われわれは調査を終結させたとは考えていない。今回は行政調査による審査だったが、もし今後同じような違反行為が発覚することになれば、刑事処分の可能性がある犯則調査も辞さない」と語気を強める。
つまり公取委は、いまだ疑義が残る500件超についてはお咎めなしと判断したわけでは決してなく、逮捕者が出るリスクのある案件を損保が依然として抱えていることを忘れるな、と言っているわけだ。 しばらくの間、損保大手4社は、「顧客軽視の業務運営」をしてきたことの代償を払い続けることになりそうだ。
中村 正毅 :東洋経済 記者