鉄路と酒と(11月15日)
初冬の田園風景が車窓に流れる。郡山駅と新潟市の新津駅を結ぶ175キロのJR磐越西線は今月1日、全線開通110周年を迎えた。山野を貫く鉄路は会津地方に多大な恩恵をもたらした▼地場産業が大きく発展した。江戸末期に創業した会津若松市の老舗酒蔵によると、明治の初め頃、会津の酒は決して質が高いとは言えなかった。線路が中通りに延びて東京と結ばれ、大消費地の左党をうならせる酒造りが本格化したという。新たな商機到来に先人はさぞ発奮したに違いない。酒どころを走る大動脈が品質の向上と販路開拓に貢献した▼会津の酒蔵は伝統を守りつつ、技を進化させ、鑑評会で名をはせている。日本の伝統的酒造りがユネスコの無形文化遺産に登録されれば、世界的評価はさらに高まろう。会津の酒文化を考えるフォーラムがあす16日、会津若松市で開かれる。地域の宝を再確認し、国内外に発信する機会になるといい▼大量の酒瓶を運んだ磐越西線は、貨物輸送を終えて久しい。代わりに今は至極の味を求める地酒ファンを連れて来る。降り立った城下の街角で、交える一献は格別だ。野太い鉄路と清らかな酒が織りなす時を超えた縁[えにし]に酔う。<2024・11・15>