上野千鶴子が伝授「なぜ産まないのか」という"不産ハラスメント"への秀逸な切り返し3パターン
出産した女性は収入減、キャリア形成でも不利となるという「母の罰」「子育て罰」。ジェンダー研究者の上野千鶴子さんは「私は子のいない人生を選んできたが、なぜ産まないのかという『不産ハラスメント』をたびたび受けた。しかし、出産・育児は女性にとって不可欠な経験ではない」という――。 【画像】社会学者の上野千鶴子氏 ■「産まない女より産む方がエゴイスト」という友人との会話 「子を産むエゴイズムと産まないエゴイズム、どちらが大きいと思う?」。子どもがいる女友だちにそんな質問をしたとき、彼女は「そりゃ産むほうに決まってるじゃない」と大笑いしながら答えました。見事な答えだと思いました。新刊『マイナーノートで』(NHK出版)に書いたエピソードのひとつです。 日本の社会では、産まない女は欠陥品と見なされてきました。生物学的にだけでなく、人格的にも欠陥があると思われてきたふしがあります。エゴイストとも言われますね。 天が与えた機能を使わないのですから、確かにわがままかもしれません。でもね、「産まないエゴイズム」もあるでしょうが、私は「産むエゴイズム」も相当なものだと思いますよ。 日本では、女の「上がり」は結婚ではなく母になること。未婚の母であっても、母になればゴールに達した、つまり女であることの証明を済ませたというわけです。これは裏返せば、女は産まないと世間から一人前と認められないし、仕事上でも信用されないということになります。 それらを得るには親になったというアリバイが必要で、実際にそうしたプレッシャーから産む女性はいまも少なくありません。 私は子を産まなかった女です。これまでに何度も「子どもはいつ?」「まだ産まないの?」と聞かれてきました。人にはそれぞれ事情やそう選択した理由があるのに、いちいちうるさいなと思ったものです。こうしたハラスメントをどう名づけようかと考えて、私は「不産ハラスメント」という名称を思いつきました。 ■「子どもを産んだことのないあなたに、女の何がわかるのよ」 いままでに受けた不産ハラスメントのなかで特に忘れられないのは「子どもを産んだことのないあなたに、女の何がわかるのよ」という言葉です。 彼女はこの言葉を、私に対抗できる最後で最強のツールだと感じている。そして、多くの人々が口には出さなくてもそういう目でおひとりさまの女を見ている。私にそう実感させるだけの威力を持った、まさに必殺アッパーカットでした。 私は何も言い返しませんでした。そんな言ってはならないセリフを言わせてしまうほど、自分はこの人を追い詰めてしまったのだなと深く反省したからです。彼女としても必死の反撃だったのだと思います。 それでも、産まなかったことを後悔はしませんでした。それは自分が選択したこと。悔やんだことは一度もありません。