「ついに米国景気は〈後退期〉へ突入した」?ハリケーンが“一時的な下振れ要因”となった可能性に注意【解説:三井住友DSアセットマネジメント・シニアリサーチストラテジスト】
※本稿は、シニアリサーチストラテジスト・相馬詩絵氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
【ポイント1】金融市場はシグナル点灯に直面
■2024年7月の非農業部門雇用者数(雇用統計)は市場予想に対し弱い数字を示し、失業率も上昇しました。今般金融市場で注目されている「サーム・ルール」の基準値にも到達し、ついに米国景気は後退期に突入した、という見方が強まりました。 ■「サーム・ルール」は元米連邦準備制度理事会(FRB)のエコノミストであるサーム氏が2019年5月に発表した推計式で、失業率の過去3ヵ月平均の値が、過去12ヵ月の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退期開始の目安になるというものです。 ■8月初めに発表された7月の失業率は4.3%となり、「サーム・ルール」による値は0.53ポイントとなりました(図表1)。FRBの利下げ開始に向け、景気後退期開始のサインを警戒していた金融市場にとっては、まさにシグナル点灯の瞬間だったと言えます。 ■しかしながら、足元の統計はゆがみが生じやすい状況だったと見られます。その原因の一つとして、ハリケーンの発生があげられます。
【ポイント2】ハリケーンが一時的な下振れ要因となった可能性
■7月、米国の南部地域をハリケーン「ベリル」が襲い被害をもたらしたのは、雇用統計の集計期間中でした。そうした中で、米国労働調査局(BLS)が今回の統計には「ベリル」の影響はなかった旨を説明したこともあり、金融市場は軟調なデータ、とりわけ「サーム・ルール」の発動を額面通り受け取ったとも考えられます。 ■しかし、統計の内訳を見てみると、悪天候による就業不能者の数が、平年の同月と比べて大幅に増加し(図表2)、一時的な解雇者数も増加しています。 ■また、週次で発表されている新規失業保険申請件数では、ハリケーン当該地域における申請が増加している傾向が見られました。 ■このような状況を考慮すると、やはり7月の雇用統計には、一時的な下振れ要因が含まれていた可能性があります。金融政策を占う重要な局面下、機械的なルールを当てはめて判断するには、やや適さないタイミングだったと言えるかもしれません。
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