東海道屈指の宿場町「小田原」で起きた殺人事件…岡っ引きの主人公とその子分のバディが事件解決に奔走する「歴史小説」
日本橋を出発点に、53の宿場を経て京都三条大橋を終着点とする東海道五十三次。 その約490キロメートルにわたる長い旅路の上には、四季の変化に富んだ美しい国土、泰平無事の世の艶やかな賑わいが確かにあった。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 各宿場を舞台にした時代小説を解説しながら、江戸時代当時の自然・風俗を追体験する旅好きにはたまらない一冊『時代小説で旅する東海道五十三次』(岡村 直樹著)より一部抜粋してお届けする。 『時代小説で旅する東海道五十三次』連載第10回 『伊藤博文に大隈重信、吉田茂まで…政財界の大物がこぞって訪れた日本のリゾート地「大磯」の誕生秘話』より続く
第9宿・小田原
『半七捕物帳 山祝いの夜』(岡本綺堂) ☆宿場歩きガイド JR小田原駅、小田急小田原駅下車。東口に出て正面の通りを南進、徒歩15分で本町交差点。宿場の中心はこのあたりだ。最盛期には旅籠が95軒、本陣、脇本陣がそれぞれ4軒ずつ。宿泊施設が多いのは、箱根越えを控え、旅人は必ずここで一泊したためである。 大磯方面から小田原宿に入る手前に酒匂川が流れている。幕府は、江戸防衛の見地から―工学技術の未熟もあったろう―架橋も船渡しも許さなかった。 で、旅人は川越人足に頼って渡った。そのありさまは、広重の『小田原 酒匂川』にとらえられている。駕籠のまま人足に担がれている者、各種の輦台に乗る者、人足に肩車されて渡る者など、さまざまな渡り方を描く。 酒匂川方面を別とすれば、「なりわい交流館」に立ち寄ってから散策するのが効率的だ。昭和7年築の旧網問屋を再整備した無料休憩所で、観光情報も揃う。2階正面が出格子窓になっており、昔の旅籠の雰囲気を醸し出す。
徳川家が布いた宿場町
東海地方から江戸に移った徳川家康は、小田原に譜代中の譜代である大久保家を配し、東海道の要害である箱根山を含む関東南口の守りを固めた。西国諸大名の謀反を警戒したのである。 純粋な宿場町は、街道の両側に人家が並んでいるだけで奥行きがないのが普通だが、小田原のように城下町の機能を併せ持っている宿場は町の構造が重層的になる。 「小田原城歴史見聞館」を見学した後、一足のばして「石垣山一夜城歴史公園」へ。豊臣秀吉が小田原攻めの本営とした城の跡地だ。一夜城とはいいながら、関東初の総石垣の城で、瓦葺きの天守まで備えていた、という。間に合わせの砦などではなく、本格的な城郭だったわけだ。