「孤独感」からハマる人が増えている――コロナ禍で変化するギャンブル依存症の現状
コロナ禍の「孤独感」がギャンブル依存につながることも
――コロナ禍でのギャンブル依存症の相談は、それ以前と比べてどういった変化がありましたか。 田中紀子: 最初に緊急事態宣言が出たときに、今までなかった相談がたくさん来たんですね。例えば、飲食系のお仕事をされている人は、これまで朝から晩まで働いていて趣味を持つ余裕もなかったのに、いきなり暇になって時間を持て余してしまい、ついついギャンブルをするようになってしまったとか。「給料を全部使ってしまって、このままだと依存症になりそうで怖い」という相談が何件もありました。これまでは、家族から無理矢理電話をさせられる当事者ばかりだったのに、依存症予防のために自分から電話をかけてくるなんて初めてでしたね。「これは何かまずいことになるんじゃないか」と思いました。 特に、コロナ禍で人との関わりが減少したことで生まれた「孤独感」が、ギャンブルに向かわせた部分もあると思います。実際、ゲーム依存症患者を診ている先生方も「コロナ禍で再発してしまった人もいる」とおっしゃっていました。そのくらいガラリと状況が変化したのです。 また、オンラインのギャンブルは、24時間365日いつでもできてしまうので、あっという間に依存状態になるんですね。コロナ禍で暇な時間や孤独な時間をどう埋めたら良いかわからなかった人たちが、たった1~2年で依存状態になってしまい、相談に来ている状況です。実際、オンラインカジノも、日本からのアクセスが100倍に増えたというデータもあるほどですから、コロナ禍でいかにギャンブルにのめり込んだ人が多いかがうかがえます。
人生の優先順位が狂ったときは「危険信号」と考えるべき
――「自分が依存症かもしれない」と疑うべき行動などはあるのでしょうか? 田中紀子: 嘘をついてまで物事の優先順位を狂わせるような状態は、おかしいなと思ってほしいですね。例えば、大切な試験を受けずにギャンブルをしてしまうとか。 あとは、借金を繰り返してまでギャンブルをするようになったら、もう依存状態です。自分を苦しめている状態なので、誰かに相談したほうが良いですね。ファーストコンタクトも重要なので、精神保健福祉センターなどの専門機関や専門医、経験者同士で助け合う自助グループなどに相談へ行ってほしいと思います。 ――「ギャンブル依存症の人は心が弱いんだ」という風潮があると、相談もしづらくなるし、回復へのつながりも難しくなるので、社会の理解も必要かもしれませんね。 田中紀子: 特にギャンブル依存症の人は「ラクしてもうけようとしている」とか「確率の計算ができない」ということをすごく言われるんですね。しかし、ギャンブルを始めるまでは「そんなことでもうかるわけがない」と強く思っていた人が実は多いんです。でも、いつの間にかやめられなくなっている。「自分だけは大丈夫」と思っている人こそ、危ない病気だと思います。 ――コロナ禍がきっかけで、新しいタイプの依存症が浮き彫りになったわけですが、今後はどんな対応や体制が必要だと思いますか? 田中紀子: コロナ禍でギャンブル依存症に陥る方が増えた一方で、オンラインサービスが身近になったことで、自助グループがあるところと無いところの地域差が埋まるという良い面もありました。オンラインの普及によって、自助グループがすごく盛んになってきたんですね。ギャンブル依存を抱えた人たちは、オンラインサービスの利用ハードルが比較的低いことも特徴的です。Zoomでミーティングをしたり、LINEグループを作ったりして、今までの自助グループからするととんでもない数の人たちとつながれるようになりました。しかもその人たちとずっとつながり続けることができるんですよね。 SNSなどすぐに連絡が取れるツールがあると、「いま、ギャンブルをしたくてしょうがない」とか「いま、苦しい」という連絡に対して、すぐに誰かが寄り添って、気持ちを分かち合うことができるので、依存者が1日1日を乗り越えていくことができるメリットもあります。そういった中から回復者が出てくれば、新しいタイプの依存症に苦しんでいる人たちも含めてさらにサポートしていけると思っています。 ----- 田中紀子 公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表理事。1964年生まれ。祖父、父、夫のギャンブル依存症に悩んだ経験を持ち、自身もギャンブルと買いものに依存した経験を持つ。2014年にギャンブル依存症問題を考える会を立ち上げ、メディア出演や全国各地での講演活動を通じてギャンブル依存症の啓発活動をおこなっている。 文:優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo!JAPANが共同で制作しました)