「日本文学の歴史とは、猫文学の歴史だったのだ」三宅香帆さんが選ぶ【猫が物語に登場する小説】5作
日本文学の歴史は、猫文学の歴史だったのかもしれません。そう思わされるほどに、すぐれた小説に猫はつきものです。壮大な物語にも、男女の痴話喧嘩にも、いつだってストーリーの中心に猫がいます。 【画像】「猫を二泊三日で貸してくれるサービス」を描いた作品 書評家の三宅香帆さんが、猫が登場する文学作品5つをご紹介(「CREA」2024年夏号より一部抜粋)。
猫好きなら絶対に幸せな気分になれる
『耳猫風信社』長野まゆみ 11才になった主人公「ぼく」は、日記帳を買おうと決意し、境界を越えてとなり町へ向かう。そこで出会ったのは、変わった目の色をした少年「カシス」、そして不思議な文具店「山猫の店」だった。 「猫の世界をファンタジックに描いた本書。素敵な喫茶店やパン、お菓子の描写にもうっとりするだろう。猫好きの方なら、読むと絶対に幸せな気分になれるはず!」
毛布と一緒に猫を二泊三日で貸してくれる
『ブランケット・キャッツ』重松 清 毛布と一緒に猫を二泊三日で貸してくれる、というサービスを利用する人々を描いた連作短編集。 「こんなサービスがあったら絶対に利用してしまう! と本書を読むたびに思う。子どもができない夫婦や、リストラされた父親など、家族の事情がシビアに描かれてはいるが、登場人物皆が猫に癒されているので、読後は思わず微笑んでしまう。あたたかくて優しい猫小説だ」
谷崎潤一郎が描く猫の描写はまさに絶品
『猫と庄造と二人のをんな』谷崎潤一郎 「猫好きであった谷崎潤一郎が描く、猫の描写はまさに絶品。主人公の庄造が飼っているリリーは、飼い主を手玉にとるのだが、その様子は小悪魔的で、読んでいると恋をしそうになってしまうほど。さらに、そこに庄造のことを愛する女性がやってきて、人間が猫に嫉妬し、醜態をさらす様が描かれている。谷崎の時代から、猫に人間が振り回されるのは、変わらないのだ!」
猫を撫でまわしたくなる小説
『ねじまき鳥クロニクル』村上春樹 法律事務所を辞めた「僕」と、雑誌編集者のクミコ。平穏な生活を送る夫婦の奇妙な運命を描く。 「主人公が飼っていた猫の失踪から物語は始まり、猫を捜しながら、現実と幻想が交錯する不思議な世界に至ることに。猫好きを公言している作者ならではの猫の描写がとても優しくてリアリティがあり、私にとって本書は、読むと猫を撫でまわしたくなる小説の一つ」