サウジがイランと断交 中東を揺るがしかねない対立の歴史
中東の対立は激化する?
サウジとイランが対立するなか、もともとサウジと近いペルシャ湾岸諸国などもイランと断交。これら各国も、欧米諸国がイランと関係を改善することに警戒感をもつ点で共通します。もっとも、同じくスンニ派中心でも、トルコやヨルダンなど、もともとサウジと距離を置いている国はその限りでなく、宗派の違いと政治的な対立が常に一致するとは限りません。ただし、それはイスラム圏内部の対立関係がより複雑化することをも意味します。
一方、サウジとイランの対立は、IS対策の足並みの乱れを呼ぶ以外にも、外部の国にとって大きな利益のある話ではありません。米国は両者に自制を呼びかけていますが、そこにはサウジから突き付けられた二者択一を回避する側面があります。同様に、ロシアも両国に調停の用意があると発表。友好国のイランがスンニ派諸国と対立を深めれば、シリア情勢をめぐって進み始めていたロシアと有志連合の提携が破談になりかねません。それはロシアにとっても西側諸国に自らの存在を示すチャンスを失うことになるため、避けたいところです。 このような外部の働きかけもあり、サウジとイランが正面から戦争に突っ込むことはほとんど想定できません。とはいえ、これまでにみてきたように両者の対立は根深いもので、一朝一夕に解決されるものではありません。これらに鑑みれば、シリアやイエメンで激化しているようなサウジとイランの「代理戦争」が中東各地に飛び火し、それによって地域一帯がさらに不安定化する恐れがあるといえるでしょう。
------------------------------------------------------ ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト