【33年ぶり新作】挿絵画家永井郁子が故・寺村輝夫の想いを継いで『わかったさんのスイートポテト』を描くまで
最初の発想はわかったさんの「赤ちゃん絵本」
――それで新作を書く決意をしたんですね。 永井 わかったさんは、いずれ40周年を迎えます。そうすると、読者はもう2代目。もしかすると、最初の読者の孫世代が読むものになるかもしれません。それで最初は、赤ちゃん絵本を企画しました。 ――赤ちゃん絵本はどのような内容だったんですか? 永井 わかったさんは、クリーニング店で働く若い女性で身長が高いのですが、赤ちゃん絵本では線を太くして、小学校高学年から中学生くらいのキャラクターにしたんです。メニューは、離乳食としても親しみやすいふかし芋。文章も少なくシンプルにしました。 けれど、あかね書房へ持っていったら、「わかったさんはお話の面白さが大切で、絵がかわいいだけでは難しい。寺村先生のファンが見ても納得できる作品じゃないと」と言われたんです。それで悩んでいたら、編集担当者が「もうすこしだけ長いテキストに挑戦してみませんか?」と提案してくれました。寺村先⽣の書いた「わかったさんのおかし」シリーズは1冊80ページですが、いろいろ検討したうえで、新しいシリーズでは原稿の枚数を減らし、絵は全部カラーにして、64ページの本にすることになったんです。 それで、あらためて原稿を書き終えて渡したら、「寺村さんの世界を捉えながら、永井さんの世界も表現できた読み物になっている」と言ってもらえて、制作がスタートしました。 ――寺村先生の作ったわかったさんの世界を、新作でも大切にしたのですね。 永井 やっぱり読者を裏切ってはいけないんですよね。わかったさんを主人公にする以上は、「全然違う」と言われたら意味がないんです。 だから寺村先生が書いた「わかったさんのおかし」シリーズを何度も読み直して、世界観を確実に守れるように資料にまとめることから始めました。「1丁目はマンションがたくさん立っている」「2丁目には公園や学校がある」といった位置関係や、句読点を打つ法則性まで。わかったさんの住む町を描いた見返しの地図も昔のものを抜粋して使用し、一部描き加えることにしました。