【33年ぶり新作】挿絵画家永井郁子が故・寺村輝夫の想いを継いで『わかったさんのスイートポテト』を描くまで
わかったさんの全シリーズに登場する寺村輝夫の似顔絵イラスト
――新作のお菓子をスイートポテトにした理由は何ですか? 永井 もともと赤ちゃん絵本でふかし芋を考えていたから、自然の流れで決まりましたね。これまでのわかったさんでは、クッキーやシュークリームといった王道のお菓子を作っていたので、クイニーアマンとかクレームブリュレのような現代的なお菓子に挑戦するよりは、みんなになじみのあるスイートポテトもいいかもね、となった気がします。 ――『わかったさんのスイートポテト』の作中では、お髭を生やした寺村先生らしき肖像画を見つけて、リスペクトを感じました。 永井 実は、「わかったさんのおかし」シリーズの全巻に寺村先生の似顔絵を描いているんですよ。当時の編集担当者や寺村先生の奥様、お孫さん、お嫁さんも描きました。寺村先生も似顔絵に気づいていたのでしょうけど、指摘されたことはなかったですね。 ――わかったさんの衣装がすごくかわいいのも印象的でした。時代に左右されないデザインですよね。 永井 『おしゃれさんの茶道はじめて物語』(永井郁子・作絵/淡交社)を描いたとき、小中学生向けのファッション雑誌を参考にして、今どきの服装を意識しましたけれど、わかったさんは流行を追いかけないことで、時代に左右されない服装になりましたね。 『わかったさんのクッキー』の服装は、当時私が着ていた服を再現したものです。ツートンカラーのリーガルの靴が流行っていたんですよ。2~3作目からは自分で考えるようになりました。『わかったさんのアップルパイ』で表紙を飾ったウエディングドレス姿も自分でデザインを考えて、表紙で白のドレスだと涼しすぎるので、少し黄色にしましたね。
絵は物語を忠実に再現することを大切に
――寺村先生と一緒に作った「わかったさん」と、一人で書き上げた「わかったさん」、違いはありましたか? 永井 絵描きとしては、まったく変わらないですね。原稿を言葉通りに再現することを大切にしています。絵を描く方がメンタル的にはしんどいかもしれません。 文章は50歳近くになってから本格的に始めたので、技術的にはまだまだひよっこ。編集者に助けていただくことが多々あります。でもやっぱりお話を考えるのはすごく楽しいですよ。 文章と挿絵の配分をどうするかは、私の場合は寺村先生から「あなたプロでしょ。自分でやりなさい」と言われたので、ずっと自分でやっています。「ここは絵が大きい方がいい」と思ったら原稿は2行ぐらいに割り付けして。そういう作業が、絵を上手に描くことより肝心だと学びました。 後から、「作と絵が別の人の作品では、原稿の割り付けは編集者がするのが一般的だ」と知ったのですが、寺村先生なりのご指導だったんでしょう。「全部任せる」なんて言われたら、「自分にとって最高のものを作らなきゃ!」って頑張りますもんね。