駅遠の郊外団地を「駅マエ化」!? 移動サービス付きの新しい団地暮らしの実証実験、家賃高騰のなか注目あつまる 兵庫・神戸市
子育て世代をターゲットに団地の活性化を狙うプロジェクト
明舞団地の一角にある神戸市が運営する賃貸住宅「シティハイツ狩口」はJR朝霧駅から徒歩約10分。このプロジェクトに参加する場合、まずはここに入居するのが条件だ。対象となるのは2024年7月1日から2025年1月1日に新規入居する若年ファミリー世帯(夫婦年齢合計80歳以下または未就学児のいる世帯)となる。
その後、「こうべぐらし応援補助金『住みかえーる』」に申請し、同補助金の交付決定後「団地まるごと駅マエ化プロジェクト専用フォーム」から申し込むことになる。一連の申請作業を終えると、JR西日本の定期券とLUUPの利用クーポンが手元に届く流れだ。 シティハイツ狩口はエレベーターがない5階建てながら、間取りは3LDKで家賃73000円。子育てに十分な間取りである上に、仲介手数料・礼金・更新料が無料。しかも新婚・子育て・多子世帯のいずれかの場合は月額家賃が2割減免される。上階にあるフローリング13.4畳のLDKに面したバルコニーからは明石海峡が望め、ちょっとしたリゾート気分も味わえるのが嬉しい。
特典となるJR西日本の定期券は、明石駅~三ノ宮駅間の記名式ICOCA通勤定期券6カ月分・愛称「きっかけエリアパス」。この区間内にある駅なら自由に乗降が可能なため、最寄駅の朝霧駅以外でも利用可能。これまで降り立つことのなかった駅で降りて、沿線の魅力を再発見することもできそうだ。 また電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアリングサービスLUUPは、朝霧駅や明舞団地周辺に合計40台停車可能な、12ヶ所のポートを設置済み。ポート間の乗り捨てが可能で、坂の上にある集合住宅と朝霧駅間を必要以上の体力を消耗せず好きな時に移動できる。本来なら利用ごとに基本料金50円と1分毎に15円必要だが、同プロジェクトに参加すれば最大10分×100回分のクーポンが手に入る。
オールドニュータウン活性化への期待と直面する問題
「現時点(2024年9月)ではプロジェクト開始以降における新規入居者はいませんが、シティハイツ狩口を住み替え候補に検討している方はいるようです」と語るのは神戸市建築住宅局政策課の高見大地(たかみ・だいち)さん。入居の対象期間が7月から翌1月が引越しのオフシーズンに当たるというのも、反応の鈍さの原因の一つと考えられる。一方で「データを見るとLUUPの利用は比較的活発なようです」と少なからず手応えを感じているようだ。実際に朝霧駅前周辺ではさっそうとLUUPに乗ってやってくる住民の姿を見かけた。 高見さんらはこのプロジェクトを周知しようと、9月にはLUUPの試乗会も実施。朝霧駅まで移動に30分かかる明舞団地の離れたエリアからでも、このLUUPを利用すれば約10分でたどり着く。電動キックボードに苦手意識があるという場合は電動アシスト自転車もある。利用者が増えればポートも数も増やしていくことも検討しているようだ。 「この団地は交通の便が悪い場所もあるので、住人の方が外出するきっかけにはなると思います。ただ、若い人は問題なく利用できる人が多いようですが、(LUUPは)足腰の弱い高齢者の人にはどうかな、という印象はあります」と語るのはめいまい保健室の山本裕子(やまもと・ゆうこ)さん。2016年から周辺住民の健康や生活の悩みを、誰もが相談できる同室を運営する。 子育て世代の相談も対象としているものの、実際は高齢者への対応が業務の中心という山本さん。同団地の高齢化に伴うさまざまな問題を数多く見聞きしてきた。その上で「今は若い世代が経済的に子どもを育てにくい状況。そこで彼らを惹きつける魅力やお得感をもっと発信して、彼らがこの団地に移り住んでくれることに期待しています」と思いを述べる。なお、LUUPでは将来的に、ご高齢の方も乗ることができる新しいモビリティの導入を目指している。
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