「イスラム国」崩壊後もテロの脅威は続く
シリア・イラクはさらに対応困難に?
ISの最高責任者は自らカリフを名乗ったアブ・バクル・アル・バグダディですが、有志連合の戦闘爆撃機と無人爆撃機に狙われながらも何とか生きながらえて逃亡を続けています。バグダディにとっては最側近と目されていた広報担当のアブムハンマド・アドナニが2016年8月、連合軍の空爆で殺害されたことで気が滅入っていたと考えられ、その後はまるでアルカイダのオサマ・ビン・ラディンの逃亡劇を倣ったように、目立たないように行動し、お供も最小限にし、車1台で砂漠を行き来しているといわれています。 一か所にとどまる時間も限られ、通信も傍受されないよう、スマートフォンもコンピュータも使用できない不便な逃亡生活を強いられています。バグダディの首には2400万ドルの賞金が懸けられています。バグダディが信頼できるのはごく一部の側近のみで、部下への命令・指示も側近が極秘に国際クーリエ便の形で直接届けているといわれています。 バグダディがこれほどまでに用心深く振る舞っているため、ハイテクを駆使する有志連合もいまだにバグダディを拘束できないでいます。しかし、オサマ・ビン・ラディンも10年間潜伏を続けた後にアジトを発見され、ついに殺害されてしまいました(2011年5月)。バグダディも、ビン・ラディン同様に、遅かれ早かれ生きて拘束されるか殺害されるでしょう。米国のトランプ大統領は、ISとの戦闘の勝利を政治宣伝に使用していますが、バグダディを逮捕できればさらなる政治宣伝に利用できるでしょう。このような背景を考えれば、米軍主導の有志連合によるバグダディ追及の手は、ますます厳しいものになると思われます。 一方、シリアとイラクでの最後の戦いが終了した後の状況は、以前よりもさらに対応困難な状態に陥る可能性があります。米国の対テロ戦略上、これまで一定規模の組織を対象に何年も戦ってきたのが、急に個人または細々とした小さな組織が相手になるのです。すなわち一国の正規軍が対峙するような組織ではなくなり、今までとは全く勝手の違う対象が敵になるのです。今までとは異なるやり方で掃討に取り組む必要があります。ゲリラ戦法を取る少人数の敵を発見することも難しくなり、彼らの復活を阻止することも困難になります。このような状態が長期化すれば、いかに国家への忠誠心が強い米軍兵士にも厭戦気分が高じてくるでしょう。