「イスラム国」崩壊後もテロの脅威は続く
テロとの戦いの総決算になるのか
米国のシンクタンク「CSIS」(米戦略国際問題研究所)が2018年11月に出したレポート「サラフィ・ジハーディストの脅威が伸張」(The Evolution of the Salafi-Jihadist Threat)にややショッキングな分析が掲載されていました。 9.11同時多発テロ以来、米国は17年にもわたってテロとの戦いを進めてきたにもかかわらず、アルカイダやISなどの国際テロリスト集団の勢力は当時の270%増(約4倍)に膨れ上がり、その数は67グループ・23万人にも達し、世界70か国以上で活動しているというのです。つまりこのレポートは、世界中が結束してテロとの戦いに参加してきた各国の努力が、徒労に終わったのではないかというニュアンスを醸しています。 テロリスト、過激派の人数がここまで増えていることには、それなりの理由があるのでしょうが、その一つは、米国主導で戦いを進める有志連合側に有無を言わせない強引さが多々みられたこと、二つ目は、特に米国が誤った情報に踊らされ、冷静さを失っていたと思われる状況も少なからずみられたということでしょう。アフガニスタンのタリバンへの攻撃やイラク侵攻に至った経緯がその典型的な事例だと思われます。ただ、現在のように世界を二分するような深刻な状況を招いた責任は、米国とイスラム過激派双方にあることは間違いありません。暴力が暴力を呼び、憎悪がさらなる憎悪を生み出すという悪循環は、次の新しい時代では、何とか改善に向かってほしいと思います。
----------------------------------------------- ■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。1975年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。16年から日本大学教授。著書「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版、「国際テロリズムハンドブック」(立花書房)、「国際テロリズム その戦術と実態から抑止まで」(原書房)