「イスラム国」崩壊後もテロの脅威は続く
ところで、テロを迎え撃つ側の対応ですが、テロリスト間の通信の傍受や、IT通信産業の協力を得ることで、テロ計画の事前摘発が進んできています。欧州でのテロは、パリの同時多発テロが発生した2015年から急増しましたが、2018年以降は減少しています。もちろん、警察や治安機関の努力があってのことですが、実際に発生したテロの件数と事前に摘発された件数の双方をプラスしてみると、その数は急増する前の2014年以前と比べると、まだまだ高い水準にあります(グラフ参照)。すなわち、計画され、実行に向かって動いたテロの件数はそれほど減ってはいないということです。欧州では今後もジハーディスト・ネットワークの暗躍によるテロが継続して発生する可能性があります。
既に活動拠点を国外に移している
ISは早くからシリア・イラクでの拠点喪失を予測していたのか、国外の紛争地域に支部を創設し、兵力を移転していました。2014年にはアルジェリア、エジプト、リビア、2015年には、アフガニスタン、ナイジェリア、イエメン、サウジアラビア、ロシア・コーカサス地方などに「州」という支部を構え、地元の勢力と覇権を争ったり、時には共闘を組んだりしています。 この中でも最初に目標を定めたのはカダフィ政権の崩壊後、内戦が続いているリビアです。ISは2014年に同国中部の石油積出港シルトに進出したものの、2018年にリビア軍の攻撃を受け、結局リビア全土から撤退せざるを得なくなりました。しかし、ISは現在もリビアを重視していて国内に複数の拠点を維持しているといわれています。 また、ISはアジアにも進出しようとしています。まずは2016年、フィリピン・ミンダナオの過激派組織「アブサヤフ」や「マウテ・グループ」と手を組み、マラウィ市の占拠を計画しました。しかし、事の重大さに気付いた新任のドゥテルテ大統領の命令で、国軍に2017年にせん滅され、ISのフィリピン進出は失敗に終わりました。しかし、東南アジアには、インドネシア、マレーシアなどにISを信奉する過激派組織が存在し、なおも予断を許さない状況にあります。 上記のように既にISが拠点を築いている諸国は勿論のこと、シリア・イラクでの敗北を受けて多くの外国人戦士(FTF)が帰還した、チュニジア、トルコ、モロッコ、ヨルダンなどの中東諸国、3桁以上が帰還したフランス、英国、ドイツ、ベルギーなどの欧州諸国、さらには、ISの信奉者が多い東南アジア諸国にもISの残党が潜んでいる可能性が高く、それぞれの地域で「カリフ国」の復活を狙っていると考えられます。