「狙うのは詐欺師」闇バイトで実行犯募る“トクリュウ”の卑劣な手口 闇バイトの実態は「捨て駒」 脅迫され報酬はもらえず「ペナルティ」まで…
この1年で社会問題化した“闇バイト”。闇バイトで集められた実行役が窃盗目的で大阪市内のマンションに侵入したとして逮捕・起訴された事件では、指示役が実行役に対し、「狙うのは詐欺師」とウソの情報を伝えたり、応募時に提出した運転免許証などの個人情報を元に脅して犯行させたりする実態が浮かび上がってきた。(取材・報告=木村智子記者)
■未明に緊迫の110番 バールで玄関扉が…
「泥棒が来ています!早く来てください!」。4月12日の未明、化粧品会社社長の60代男性は恐怖のさなか、110番通報をしていた。大阪市の自宅マンションに在宅中、玄関の扉が何者かにバールでこじ開けられようとしていたのだ。幸いにも扉は開かず、犯人は立ち去った。 実はこの社長の自宅は2日前にも何者かに侵入され、現金150万円や高級腕時計など約1300万円相当が盗まれていた。 その後、12日の邸宅侵入の罪で逮捕・起訴されたのは、広島市に住む、とび職の島宏至被告(21)。窃盗目的の実行役とみられ、前日にもマンションを下見していた。
■闇バイト 狙う相手は「詐欺師」
捜査関係者によると、島被告は、同じく逮捕・起訴された指示役の今井裕治被告(37)らによって、闇バイトで集められ、被害者についてはこう聞かされていたという。 『狙う人間は詐欺師。報酬がもらえるならいい話だと思った。』 当然、被害者の男性社長は詐欺師などではない。警察は今井被告が実行役の罪悪感を紛らわすためにウソの情報を伝えていたとみて調べを進めている。
■犯行失敗すると“ペナルティ” 実行役「報復恐れ…」
一方、取材では、指示役の今井被告らが、実行役の島被告に何度も犯行を繰り返させる“闇バイトの実態”も浮かび上がってきた。 捜査関係者によると、事件の5日前にも、今井被告は島被告に対し、同じ社長の男性が大阪市内のホテルの喫茶店で多額の現金のやりとりをすることを伝え、「隙があったらひったくれ」と指示していたが、島被告は失敗したという。 さらにその3週間ほど前には、島被告は大阪府吹田市の会社事務所に窓ガラスを割って侵入した罪にも問われているが、ここでも何も盗まずに終わっている。 島被告は警察の調べに対し、犯行に失敗すると、さらに別の事件に関与するよう指示されると話したという。島被告はいずれの事件でも、報酬を今井被告らからは受け取っていないとみられるほか、「ペナルティ」として数十万を支払うよう言われていたという。 なぜ、島被告は今井被告らの指示に従わざるをえない状況に陥っていたのか。 島被告『(闇バイトの応募時に)個人情報を渡しているので、家族へ報復される恐れがあり、犯行するしかなかった』(警察の調べに対する供述)