自動車事故で「死なない」ための基本と最新技術
新型Sクラスの安全への“努力”
最近のシステムで最も興味深いのは、ベンツの新型Sクラスに装備されたリアシート座面エアバッグだ。Sクラスのリアシートは大きなリクライニング角と座面のスライド幅を持っている。ましてやリアシートにはVIPが乗ることも多い。くつろいだ ── と言えば聞こえがいいが、安全上望ましくないだらしない姿勢になることは目に見えている。かつてのベンツなら「乗車姿勢として正しくない」と毅然と却下したこういう要求を飲まざるを得なくなっている。 その代わり、ベンツはその安全をシステムで担保する努力をした。衝突の際シートバックのリクライニング角は適正な角度まで自動的に引き起こされ、シートベルトのプリテンショナーが作動。ベルトにはもちろんエアバッグが仕込まれている。さらに重要なのはシート座面に仕込まれたエアバッグで座面の前端を持ち上げて座面の後傾角を確保するのだ。 現在のところ、これがリアシートにしか装備されていないのは、ドライバーズシートの場合、座面前側をはね上げればそれこそペダル操作ができなくなるからだろう。仮に高速道路など速度域の高い事故で、車両が一度目の衝突で止まりきらないケースを考えると、車両が動いている間は可能な限りの操作が出来た方がいい。一度目の衝突で安全装置が作動した状態で、まだドライバーに車両コントロールができるかどうかは疑わしいが、そこで操作の全てを諦めてしまうわけにはいかないだろう。 ただこれも、その領域での操作を衝突軽減ブレーキのシステムが受け持つ様になれば、状況はだいぶ改善されるだろう。もちろん避けたいものを避けるような操作がシステムに可能かどうかは議論が分かれるところだが、前述の様にその段階で車両コントロールができるドライバーもまた多くはない。確率論の話になって来るはずだ。 最後にわれわれユーザーが、安全のためにやらなければならないことをもう一度確認しておく、どんなにシステムがデタラメを許容する進歩をしても、キチンと座って腰骨に正しくシートベルトを掛けることにしくはない。安全は誰かに何とかしてもらうものではなく、自分で守るものだからだ。 (池田直渡・モータージャーナル)