自動車事故で「死なない」ための基本と最新技術
しかし、それが本当なら電動式だって前側の高さ調整は要らないのではないか? 背が低くても安全で正しくペダルが操作できるポジションはあるはずだ。出来ないならクルマのパッケージが間違っている。百歩譲って、アシが届かないケースがあるとしたら、その場合だけペダルが正しく踏める高さに調整すればいいことで、そのために全てのユーザーが安全に直結する後傾角を諦める必要はない。 スポーツドライブ派の人にとってもこのシートの後傾角は重要だ。コーナーで強いブレーキを掛けた時、前述のベクトル成分によってシート自体が体を支えてくれる。体が支えられないと、ブレーキペダルを踏む力が思うようにコントロールできない。左足の踏ん張りだけで減速Gを支えられなければ、ブレーキペダルの踏力が増えてしまうからだ。横方向のサポートを気にする人は多いが、なぜかこの後傾角を気にする人は少ない。 つまり、シート座面の後傾角は適正に取ればかなり良い事ずくめであるにも関わらずあまり大事にされていない 折角「お客様は神様です」という国にいるのだから、だらしない姿勢を求めるユーザーに負けずに、声を上げて、シートの後傾角がちゃんとしているクルマをリクエストすべきだと思うのだ。
最新技術はどこまで進んだか?
キチンと調整できるシートがあり、正しくベルトを調整してくれれば、多くの命が救えるが、メーカーがユーザーひとりひとりにこれを教育していくのはなかなか難しい。そこで最新技術を投入して、多少デタラメな座り方やベルト調整をしている乗員も保護しようとする動きが出ている。 90年代から普及し始めたシートベルトのプリテンションシステムはその代表だ。事故の際、一度加速度がついてしまった身体をベルトで止めるのは容易ではない。ベルトの遊びをギリギリまで少なくすることはベルトの機能を高めるためには重要なことだ。 しかし、例えばシートベルトの腰部を緩く締めて圧迫感を逃れようとするユーザーは少なくない。そこで、衝突の際に、身体が動き始めるより前にシートベルトのたるみを巻き取って身体の拘束を強め、体が動く前にシートベルトを密着させてしまうシステムが考えだされた。これがシートベルトのプリテンショナーだ。 また、繰り返し述べて来た鎖骨への配慮も新しいステージに入った。シートベルトにエアバッグを仕込んで、衝撃を分散させ、より広い面で上体を支える方法が考え出された。エアバッグはビーチボールの様に空気が密封されてはいない。紙風船の様に大気解放されている。だから身体を受け止めた時に、空気が抜け衝撃を緩和できる。もちろん空気穴のサイズは適正化されて、衝撃を効率的に緩和できるようになっている。