【大人の熱海旅行】龍の“気”をいただきリフレッシュ
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す本連載。今回紹介するのは、相模湾を望む起伏に富んだ独特の景勝に惹かれ、多くの文人墨客が別荘を構えた熱海。まずは、この土地を見守る神社を参詣したい 【大人の熱海旅行】土地の“気”をいただく旅へ(写真)
《SEE》「伊豆山神社」 紅白龍が宿る山辺の社の“気”を味わう
「境内に到着され、どのように過ごしましたか」──伊豆山神社の宮司・水谷智賢さんに問われ、数分前の行動を振り返る。階段を息も絶え絶え登り、足早に手水舎へ向かったのち本殿へ直行。ちょっとしたお願いごとと旅の安全を心でつぶやくという、通例と変わらぬルーティンを思い返す。
「神社というのは、基本的に気の巡りのよい場所です。いきなり参拝する前に、時間の許す限りゆったりと過ごしてください。できれば目を閉じて、空気を味わうといいですよ」と水谷さん。
「境内でゆったりと過ごす」ことで自分の中にどんな変化が訪れるだろう。足早に参拝した後ではあるが、宮司の助言を思い返し伊豆山の気をいただくことに。本殿のさらに奥に立つ「白山社」を目指し、かつて修験道だった自然のままの険しいデコボコ道へと向かう。
日頃の運動不足を悔いながらも、大地や木の根を足の裏で感じながらゆっくり歩みを進めること約20分。視線の先に朱塗りの鳥居を見つけると、山の空気が胸にすーっと吸い込まれ、細胞に染み入るようであった。目を閉じ視界を遮ると、風に揺れる樹々の葉音や鳥の声が耳を心地よく擽る。この原始的な体験で、生きるための大切な感覚を取り戻したようにさえ思えた。
山から降りて改めて境内を見渡すと、初見とは異なる聖域に足を踏み入れたようである。そこで、改めて神社の縁起をひもとく。 伊豆山の地下には赤白二龍が臥し、火を司る赤龍と水を司る白龍が交わり、この地に温泉を生み出したという伝説が宿る。走湯大権現と称され、一説によれば、とめどなく湯が湧き出るこの地はいつしか湯が“いづる”=“伊豆(いず)”と呼ばれるように。 神社の創建も古く、平安時代初期の大同2年(西暦807)へと遡る。坂上田村麻呂による東夷征討に際して、伊豆山での祈願成就のお礼として社殿を創建、「積羽八重言代主神」を祀り、当初は「不老山神社」と称し鎮座祭を執り行ったのがはじまりだとか。 さらに時代は下り、平治の乱で流された源頼朝が北条政子とともに深い信仰を寄せたことでも知られ、二人が腰掛けて語ったとされる巨石も残る。
遠い昔の歴史を手繰り寄せているうちに静かな雨が訪れ、ふと境内を振り返ると梛の木が瑞々しく輝いていた。何やら心の澱が流されたような、軽やかな気持ちで社を後にした。 住所:静岡県熱海市伊豆山708-1 電話:0557-80-3164 BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。