タピオカ丼、エスカルゴ天そば…「富士そば」 超個性的な期間限定メニューが次々ヒットする秘密「“健康”と“オシャレ”は苦手」失敗例も
小腹がすいた深夜帯、駅前を見渡すとよく目につくのが「富士そば」の看板だ。24時間、演歌の流れるしみじみとした店内でそばを手繰り、ズルズルすする――。首都圏に住む人には、おなじみの光景ではなかろうか。 【画像】1日200食の大ヒット「富士そば」の「タピオカ丼」 東京都内を中心に、神奈川・千葉・埼玉で100店舗以上展開する立ち食いそばの一大チェーン「名代(なだい)富士そば」。そばやうどん、かつ丼、カレーなどの定番メニューを提供する一方、さまざまな期間限定メニューを販売することでも知られている。コロッケそばやトッポギそばといった、普通のそば屋より一段攻めた個性的メニューはいかにして生まれるのか。富士そば広報・田村崇浩氏に話を聞いた。 「1ケ月に一度、店頭に大きく貼る“タペストリー”と言われる期間限定メニューを販売しています。例えば、いま一部店舗限定の『沖縄そば』が大反響をいただいているんですが、沖縄そばという名称は特許庁に地域団体商標として登録されており、名称の使用や商品開発する場合は沖縄生麺協同組合の許可が必要となるんです。『沖縄風そば』とかなら大丈夫なんですが、基本的には沖縄料理店などを除き、沖縄そばの名称では東京の飲食店で販売できない。弊社はちゃんとした沖縄そばとして発信したかったので、いろいろ模索した結果、沖縄の『株式会社サン食品』様の食材をすべて使うなら沖縄そばの名称を使っていいということでした。そこでアポイントメントをとり、販売まで至った経緯があります。 このように本社で企画をイチから立ち上げ、苦心してメニュー化にこぎつける場合もありますし、それとは別に、店舗ごとの店長の裁量でオリジナルメニューを販売してもいいことになっています。新宿にある三光町店の店長はヒットメーカーなんですけど、タピオカブームの折はそれに乗っかり、『タピオカ丼』を開発して大ヒットを飛ばしました。1日20食売れればヒット商品と言われますが、タピオカ丼は1日200食でしたから、かなりの売れ行きでした」(田村氏・以下同) 過去に販売した変わり種メニューのなかでも、特に反響のあったものを聞いてみた。 「かつてシンガポールに出店していた時期があったんですが、当地のローカルフードに『肉骨茶(ばくてー)』というものがありました。当時の富士そば海外チームが二日酔い解消のため、よく食べていた馴染みの味だったんですね。豚肉をにんにくとスパイスで煮込んだ料理なんですが、このスープにそばを入れて豚肉を乗せた商品が『肉骨茶(ばくてー)そば』です。2019年に全店規模で販売したところ、ひと月で9万4000食販売しました。反響の大きさからシンガポール政府の方の耳に届き、当時の駐日大使も食べに来ていただきましたね」 意外なコラボから生まれたメニューも。 「女子プロレス『マリーゴールド』のレスラーで、桜井麻衣さんという方がいらっしゃいまして。この方とのコラボで生まれたのが、『エスカルゴ天そば』。エスカルゴの天ぷらとバジル、ガーリックバターを、おそばに乗せたものです。ファンからリングの貴婦人というニックネームで愛されている桜井さんに合わせたフランス風なイメージですね。これは海外のお客様にも反響がありました。 あとはアパホテルさんとタイアップした『アパ社長カレー』。アパホテルさんの本社が赤坂見附にあり、うちの店舗もその近くにあったご縁から実現しました。また、銀だこさんとコラボした『銀だこそば』というものも。こちらはむしろ、ウチのすぐ近くにあった銀だこさんの売上のほうが伸びてしまって。『富士そばでたこ焼き食べるんだったら、銀だこで食べる』というお客様が多かったみたいです(笑)。コラボのお話をいただくことはよくあります」 独創的な料理を考案するなかで、企画段階でポシャり、実現しなかったメニューも多々あるという。 「現状では、海鮮などのなまものは基本的に販売しておらず、必ず火を通してお料理したものをお出ししています。それ以外はほぼ採用になるんですけど、なんせ数えきれない数の企画が動いているので、消えていくメニューも無数にあります。先ほど申し上げた通り、店長の裁量がものすごく大きいので、店長が試食して響かなければボツになるケースも多いです。 例えば、『焼きそばカツカレー』というメニュー。これは見た目が圧倒的に美味しそうだったんですが、食べたときのインパクトが普通だったという。『焼きそばとカツカレー、別々で食べたほうが美味しいよね』となりました。そういう意味ではいろんなメニューに挑戦しており、ときには『食べ物で遊ぶな』と怒られちゃうこともあるんですけど……。ちなみに、ウチが最も苦手なのが“健康”です。そういうワードに引っ掛けにいくと、ことごとく失敗しています。クリームとそばを掛け合わせたカルボナーラ風みたいなオシャレなそばも、失敗に終わりました」 チェーン店という性格上、メニュー開発の際に最も苦心するのが原価と価格との折り合いだ。 「ちゃんとした作り方で作りたいのはもちろんですが、やりすぎるとウチの店舗の価格に収まらないところが悩ましいですね。富士そばに来ていただいているお客様ですから、それなりの価格帯のなかでということになると、そこの折り合いが難しい。大体の平均客単価が600~630円くらいだとして、当然1000円を超えるメニューというのはほぼ存在しません。そこを超えてくるようなメニューだと、ちょっと改良が必要になります」 一週間で消えるメニューもあれば、一見珍メニューが大バズリすることも。限定メニューには、富士そばの強みとサービス精神が詰まっている。