建物が密集している街は、地図でどう書かれている?商店街や集落…地図記号から「昔の景観」が見えてくる
◆ハッチングの表現 ハッチングは大きな独立建物にも応用されている。 アパートなど細長い建物は黒抹家屋をそれなりに長く伸ばした「独立建物(小)」の記号だが、短辺が25メートル以上の場合は「独立建物(大)」で、高さが10メートル(3階建て)未満なら黒く塗りつぶす代わりに左上→右下方向のハッチングが用いられ、それより高ければ「中高層建物」のクロスハッチング(格子模様)となる。 最近になって大きく変わったのは最新の2万5千分の1地形図や「地理院地図」に適用されている「平成25年図式」で、ハッチングの表現を用いずにすべての建物をそのまま表示することになった。 具体的には都市部の自治体が作成した2千5百分の1「都市計画図」を縮小して貼り付けてあるのだが、これは手間を省くためである。 なぜなら密集市街地を描くには、そのエリアを特定する難しい判断を経てハッチングの指定を行う必要があるためだ。 市街地の描写については、戦前はまったく違う発想で行われていた。 国土地理院の前身にあたる陸地測量部の戦前の部内資料『地形図図式詳解』には、「市街、村落ノ外周ハ用図目標トナリ殊ニ村落ノ外周ハ屡々(しばしば)戦闘ノ為緊要ナルコトアリ。故ニ外周ノ景況、特ニ障碍ノ程度ハ内部ノモノニ比シ精確ニ之ヲ描示スルヲ要ス」と書かれており、市街戦の場面で地形図が果たす役割の重要性を強調していた。 特色ある建物の外形を目立たせ、塀や柵、独立樹などを的確に描写することが現在地を知るための助けになる。まさに生死を分ける読図への考慮であった。 これだけ詳細に市街を描写したにもかかわらず、皇室関係の屋敷だけは例外であった。 同書に「宮城、離宮、御所、御用邸、御苑、皇族邸等ハ内部ノ地物地貌ヲ描カス単ニ其(その)外周ヲ描テ之ヲ示スモノトス」とあるように、敷地内は屋敷や庭木はもちろん等高線も描かない空白で、ただ文字で「**宮邸」などと記したのみであった。