「後期高齢者」という酷い呼び名 “レッテル張り”が日本の健康長寿を阻んでいる
アクセルを踏みながらブレーキを踏むな
じつは、「後期高齢者」という呼称を変更すべきではないか、という声は以前にも上がっている。なぜこの呼称に決定したのか、国会で問われたこともあった。2014年には当時の田村憲久厚労相が、「後期という呼び方には冷たいという批判もあったので、『熟年高齢者』と変更してはどうか」というアイディアを示している。だが、うやむやのままで、いまなお見直す気配はない。 この呼称は、2008年に施行され、後期高齢者医療制度の根拠となっている「高齢者の医療の確保に関する法律」に明記されている。そこでは65歳から74歳が「前期高齢者」で満75歳以上が「後期高齢者」と、明確に定められている。 政治や行政がこの呼称を改める姿勢を示さないのは、法律の条文まで変える面倒を負ってまで、呼称を変更する必要はない、という意識によるものではないだろうか。だが、これまで述べてきたように、後期高齢者と呼ばれるがために、前向きになれなくなっている人たちがいる。また、前向きになれないことは、健康を害することにつながりかねない。国を挙げて健康寿命の延伸に取り組んでいるときに、それを阻みかねない呼び名を、どうして放置するのか。 アクセルを踏みながらブレーキも踏む。そういうダブルスタンダードの施策はほかにもあるが、「後期高齢者」と呼び続けることも、まちがいなくそのひとつである。がまんすべきだ、というのか。しかし、その「がまん」が健康寿命を縮め、社会保障費の増大につながる。なにより国民の幸福を阻害することになる。早急に改めるべきであろう。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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