甲子園で延長25回を投げた伝説の投手「吉田正男」 偉業のウラにあった“人生最大の衝撃”(小林信也)
8人が戦死
球史にさんぜんと輝く投手・吉田の偉業。だが当の吉田にとって人生最大の衝撃は甲子園ではなかった……。 延長25回の準決勝を戦った選手のうち、楠本や中田ら8人が後に戦死している。 吉田の長男・正克を取材した朝日新聞(2018年8月7日付)がこう報じている。 〈6年間もの兵役中に戦死公報が自宅へ3回届いたが、全部誤報だった。(中略)自分の生後2週間で戦地へ行った父のことを、正克さんは周囲から「甲子園の英雄」と聞かされて育つ。だが6歳の時、復員した父はマラリアに冒され、ボロボロにやつれていた。正克さんは心中で膨らませていた英雄像とはかけ離れた姿に絶句したという〉 そして、正克は父・正男から生前、感じ取った痛切な心情を語っている。 〈「生涯、多くのライバルの命を奪った戦争を憎み続けた」〉 小林信也(こばやしのぶや) スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。 「週刊新潮」2024年8月8日号 掲載
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