「マイナス20度」で朝食を作ったら“予想外の大ピンチ”に…「南極料理人」が明かす「極限体験」365日
遠征に行って感じた南極の素晴らしさと怖さ
話を戻そう。南極では、5月末~7月半ばまでの日が昇らない極夜の時期をすぎると1日10分ずつ日が長くなっていく。日は長くなっていく一方、寒さは遅れてやってくる。最も寒い8~9月、その時期の平均気温は零下20℃台、滞在時の最低気温は零下37℃になったという。 その時期、中川さんは昭和基地を離れての遠征を体験した。この遠征、雪上車に乗って、泊まりがけでおこなうもの。観測隊では「旅行」と呼ばれている。その目的は各種の観測をしたり、内陸部にある別の基地の設備メンテナンスをしたりするためだ。ときには3週間かけて行われるものもあり、そのときは昭和基地から1,000キロ離れたドームふじ基地へ燃料を置きに行くというものであった。この年もさまざまな「旅行」が予定されていた。 中川さんが体験した遠征はどうだったのだろうか。 「雪上車に乗って5泊の遠征でした。食事も睡眠もすべて車内。調理したカレーを真空パックにしたものを人数分用意して、それを湯煎して食べてました。午後11時ごろ、エンジンを切って寝袋に包まりました。午前5時に起きると、ペットボトルから何から何まで全部凍ってて、カセットボンベの火がなかなかつかず、付いても弱火にしかなりませんでした」 遠征するときの服は、暖房の効いている基地内とは違って、重装備の防寒服を着ていくことになる。「羽毛服」という軽くて暖かい、-10℃以下でも過ごせる上着、D型雪靴というウールの2倍暖かいデビロン綿を使ったつま先や靴底が二重になった暖かい靴、くわえて防寒手袋にゴム手袋、防寒帽、ヘルメット、目出し帽、ゴーグルなどである。 南極は天気がいいときはオーロラが見えたりしてすばらしいが、ひとたび最大瞬間風速が25m/sを超えるブリザードがやってくれば、ごうごうと大きな音をたてる強風が響き、あたり一面真っ白となりそれまで見えていた島や岩が見えなくなる。外出禁止令が出て、何日も外に出られなくなったりすることが珍しくない。 中川さんも、日中の作業中に地吹雪に見舞われたことがある。 「その時は、前年の隊が置いたままにした雪上車やゴミの回収でした。1メートルほど雪で埋まっていたため、それを掘り出す作業です。吹き荒れている中での外作業では、ゴーグルが凍って何も見えなかった。外すと目をあけることが出来ませんでした。まつ毛も眉毛もみんな凍っての作業となりました」