<ボクシング>八重樫のTKO敗戦に鳴り止まなかった拍手
だが、3ラウンド、八重樫が、ワンツースリーのコンビネーションブローで、左から右、さらに左を打ちに出たタイミングに鋭く重い左フックをカウンターで合わされた。所謂、効いたわけではないタイミングのダウン。肉体的ダメージはなかったが心理的ダメージが襲う。「このペースでなんとかいけるかもと思っていたんですが、あのラウンドにダウンしたんですよね?」。八重樫の右目が腫れ始めた。 中盤に入ると八重樫もロマゴンのパンチになれてきた。土居進フィジカルコーチが「ロマゴンのパンチに耐えることができる肉体」をテーマにトレーニングで積み上げてきたものが、ダメージを吸収していたのか、左を何発かまともにもらったが、ひるまずに前に出る。ロープを背負っても、必ず反撃。「やられたらやり返す」。しかも、左フックを軸にした連打で返すので最強挑戦者が、それ以上前に出ることに躊躇する。ちょっと前に流行したテレビドラマでないが、八重樫の強い意思が、敗者となることを拒絶する。それでも的確なヒットはロマゴンである。それほどスピードはなく、思い切り打ってくるわけではないが、ガードを割り、急所に食い込んでくる。独特のリズムと距離感。リードからのコンビネーションブローは殺戮者のそれだ。 「ワンツーのあとに必ず3つ目がきて下がらされる。つなぎ、緩急、角度、技術が超一流だった、こっちもカチン、カチンと入ったものもあったが、芯でももらってくれない」。 終盤に入ってロマゴンは何度もフィニッシュに来た。エネルギーを使い果たす勢いで出てくるのだが、その度に八重樫の反撃に合う。8ラウンド、八重樫は、体をくっつけてトリプルのコンビネーションブローの最後に左フック。それは確かにテンプルを捕らえたが、ロマゴンは、なんでもない顔をしている。 相手のインサイドで密着戦を仕掛ける手があったのではないか?筆者は、そう思ったが、試合後に松本トレーナーにぶつけると「大橋会長が『コリアン戦法だ!』と指示したのですが、プレッシャーがきつくてインサイドに入れなかった。常にロマゴンの間が生きていた」と言う。そのラウンド、強烈な右を受け、ついに八重樫の膝がガクンと折れた。ここぞとばかりにロマゴンは詰めに来たが、ダウンしたのは、八重樫が打ち返して団子状態になったところに巻き込まれたレフェリーの方だった。それでも、このラウンドが終わって発表された公開採点は、「72-79」が2人、「71-80」のフルマークが一人という絶望的な数字だった。 「採点は気にしてなかった、最初から1ラウンド、1ラウンドが勝負だと思っていた。結局、倒されたのは、何ラウンドでした?」。