習近平・国家主席までもが敬意を払う「中国にとっての日本の天皇」という特別な存在
習近平の90度のお辞儀
峯村:この観点から日中関係を分析してみましょう。中国の国内総生産(GDP)は日本の4倍を超えており、国防費も6倍以上の差がつけられています。しかし、日本が中国の「ジュニアパートナーになった」と言う人はほとんどいません。日本の対中レバレッジのひとつになっているのが、日本の天皇制だとみています。 中国の共産党や政府の当局者と話していると、天皇に特別な眼差しを向けていることを感じます。 1989年の第二次天安門事件後、西側諸国から制裁を受けていた中国にとって、ブレイクスルーとなったのは1992年の天皇訪中でした。前国家主席の胡錦濤が、江沢民の後継として権力基盤を固めるために行なったのも、訪日して天皇陛下と面会することでした。 さらに、現在の習近平は国家副主席だった2009年に来日した際、天皇と外国要人との会見は1か月前までに要請するというルールを曲げてまで、天皇陛下(現上皇陛下)との面会を当時の民主党政権にごり押ししました。私も当時、北京特派員として訪日に同行し、水面下のやりとりを取材しました。中国側はあらゆる手段を使って天皇会見の実現を画策し、最後に民主党幹事長だった小沢一郎にねじ込んだ。習近平にとって、国家主席になるうえで不可欠の儀礼だったのでしょう。かつて日本の君主が中国の皇帝に朝貢したように、いまでは中国共産党指導者にとって日本の天皇こそが、トップになるための正統性を補強する存在になっているのです。 習近平が陛下と会う際、私は会見場の舞台袖から見ていたのですが、記者団のカメラからは映らない場所で、習近平は腰を90度に折り曲げるようにして陛下にお辞儀をしていました。大きな身体を折り曲げる姿がいまも目に焼き付いています。そうした天皇に対する敬意を習近平ももっていると考えると、中国の「逆朝貢体制」は、日中間においてはまだ少し残っているのではないかと感じるところです。 (シリーズ続く) ※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成 【プロフィール】 橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。 峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。
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