『占拠』シリーズはなぜ大ヒットした? 『潜入兄妹』Pが語る、話題を生むドラマの“仕掛け”
2023年の『大病院占拠』、2024年の『新空港占拠』と、日本テレビによる異色のサスペンスドラマは視聴者を大きな考察の渦に巻き込み、大反響を呼んだ。その制作チームによる新作『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』が、10月5日よりスタートする。 【写真】場面カット(複数あり) 『占拠』シリーズは予測不能な展開と差し迫るタイムリミットが続くことで緊張感が生み出されていたが、『潜入兄妹』では潜入捜査を通して、一触即発のハラハラしたスリルが描かれるようだ。2024年現在のドラマ環境において異質とも言える一連の作品は、一体どのように作り出されているのだろうか。そこでリアルサウンド映画部ではプロデューサーの尾上貴洋にインタビュー。チームでのものづくりから独特なキャスティングの裏側まで話を聞いた。
「僕らは『占拠』シリーズの見方を“観戦”と呼んでいた」
ーー『潜入兄妹』は『大病院占拠』『新空港占拠』と同じチームでの制作となります。もともと2019年の『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)から始まっていますが、“チームでの物作り”という意識は大きいのでしょうか? 尾上貴洋(以下、尾上):大きいです。今回は脚本、監督、プロデューサー、そして音楽も担当が一緒で、ある意味やりたいことの方向性がみんな分かっているんです。「この人がこう言うということは、こういう方向で作りたいんだろうな」というように呼吸でわかる感じになっているので。テイストや脚本の作り方、セリフまでもいい形でしっくりきている感覚ですね。慣れたチームで制作がやりやすいということももちろんですし、そもそも、いろんな事件が一気に発生してそれをなんとか解決する、そんなスピード感溢れるドラマを好きな人たちが集まっているんです。 ーー企画段階から話し合いをしているんですね。 尾上:脚本家とプロデューサーと演出家で“脚本打ち”をしますが、そこではもうみんな子供のように「こういうことしたら面白いね」とか、「爆発させようか」「殺人マシーンでこんなの出てきたら面白いね」とかそういう話をどんどん出していきます(笑)。それらをどうやって物語に組み込んでいくかを発想する感じですかね。 ーーそれは楽しそうですね(笑)。爆発させたりとか、殺人マシーンとか、そういうアイデアをよく出されるのは誰なんですか? 尾上:結構みんなやってます(笑)。どうしたら主人公をピンチに陥らせて、かつ、みんながドキドキできる状況を作れるか。そういうお題に対して、アイデアがみんなポンポンと出てきます。僕もたくさん言いますが、そういうのが好きな人間たちです。 ーー楽しんで作っている感じが映像にすごく表れているなと感じていました。似たジャンルの映画や海外ドラマから影響を受けたり、イメージして企画を作られたりすることもあるのですか? 尾上:もちろん全ての映画やドラマから影響を受けていたりするとは思うのですが、具体的にそれがどうとかは特別には意識せずに作っています。 ーーオリジナル性が高いのも、本シリーズの魅力だと思っています。 尾上:今は本当にいろいろなコンテンツがあって、ドラマの物語やパターンが飽和状態になっていると思います。そこで意外な展開を起こすのって、やっぱりなかなか難しいんですよね。個人的な好みは、映画でいうとクエンティン・タランティーノの作品とかすごく好きだったんです。突然脈絡もなく、何が起こるかわからないような映画が好きで。それにはちょっと影響を受けていると思いますし、そうしたものを自分たちの作品で昇華できないかを考えていますね。 ーーそうした意味において、『占拠』シリーズは本当に面白かったです。考察もすごく盛り上がっていましたが、そういう“考察要素”も意識的に狙って組み込んでいるんですか? 尾上:あまり「考察」というと、わざとらしく仕掛けたみたいで嫌なんですけど、みんなが「ああじゃない、こうじゃない」と物語以外でもワイワイ言ってほしくて。「いや、これはベタすぎるだろ」とか、「これやったらちょっと突飛すぎるだろう」とか、そういうことを話しながら、いざ放送で「そう来たか!」と盛り上がる。僕らは『占拠』シリーズの見方を「観戦」と呼んでいたのですが、日本代表のサッカーみたいに、家族や友達、一人でもSNSでみんなで観戦できるようなコンテンツにしたいと考えていました。 ーーリアルサウンド映画部も、毎週考察記事を作っていました。その考察の中でもまさしく「これやるとベタじゃないか」のようなメタ的な発想も多かったのですが、それも狙い通りだったんですね。 尾上:ドラマの見方ってどんどん変わってきているんです。例えばキャスト。どういうキャストかによって、ある展開をすればこの人が犯人、またはこの位置で登場するということは犯人で確定だ、と見えてくる。メタ的な発想ってそういうことですよね。それが、実は今のドラマの楽しみ方の1つとしては正解かもしれないなと思いますし、だからこそ、そういう外枠での仕掛けみたいなものもちゃんと意識しています。