マイクロソフトが目指す、Copilotを入口に“AIエージェント”が協調する世界
タスクを自律的に実行するAIエージェントに関心が集まる中、マイクロソフトが目指しているのが、Copilotがユーザーインターフェイスになり、“多様なエージェント”が協調する世界だ。 【もっと写真を見る】
日本マイクロソフトは、2024年12月18日、AIエージェントに関する説明会を実施した。 タスクを自律的に実行するAIエージェントに関心が集まる中、マイクロソフトが目指しているのが、Copilotがユーザーインターフェイスとなって“多様なエージェント”が協調する世界だ。それに向け、マイクロソフトがAIエージェントを使う・創るための環境を拡充する中で、国内企業でも活用事例が増えてきているという。 日本マイクロソフトの執行役員 常務 クラウド & AI ソリューション事業本部長である岡嵜禎氏は、「(国内企業においても)より実業務に近しいところで実践的に活用され始め、エージェントにタスクを任せる割合も増えてきている」と説明。加えて、「2025年にはもっと多様なAIエージェントの事例が増えてくる」と予測した。 マイクロソフトの考えるAIエージェントの定義と目指す世界観 現在、生成AIが実験段階から本格的な適用・運用をする段階へと移行している中で、エージェント化が進んできているという。マイクロソフトも「Agentic worldの幕開け」というメッセージを打ち出し、AIエージェントの実装支援に注力する。 岡嵜氏は、AIエージェントが注目されるようになった要因について「技術的ブレークスルー」を挙げる。インターフェイスがテキスト中心からマルチモーダルに広がり、AIの推論精度も向上。より自律的に行動できるように、よりコンテキストに沿ったやり取りができるように進化を遂げている。 マイクロソフトの考えるAIエージェントの定義は、以下の3点だ。ひとつが「自律性」で、独立して行動してユーザーの介入を最小限に抑えること。2つ目が「目標指向」で、特定の目標やタスクの達成に向けて自ら計画を立てること。最後は「高度な推論」で、より複雑で連続した対話からタスクを処理する能力を持ち、さらに複数のエージェントで協調して問題を解決すること。 「こういった世界に一足飛びに行かなかったのは、人には慣れがあるから。生成AIの進化に人が慣れ、付き合い方の感度が上がった」(岡嵜氏) マイクロソフトは、AIアシスタントとして展開してきた「Copilot」をAIエージェントのユーザーインターフェイスにするアプローチをとる。Copilotが人と対話をするそのバックエンドで、さまざまなAIエージェントが協調するという世界観だ。 ニーズに合わせた3つのAIエージェントと2つの開発基盤 この協調するAIエージェントは、企業のニーズやレベルにあわせて3つの形で用意される。 ひとつ目が、マイクロソフト自身が用意する「ビルトイン型エージェント」だ。現在は、Microsoft 365に組み込まれる形で提供されている。 会議のファシリテーターを担う「Facilitator agent(パブリックプレビュー)」やプロジェクトマネージャーを担う「Project Manager agent(パブリックプレビュー)」などの特定の役割で動くものから、従業員のサポート業務を担う「Employee Self-Service agent(プライベートプレビュー)」、SharePointの特定ライブラリ内のコンテンツに対して働く「SharePoint agents(一般提供)」といった特定のタスクを実行するものまで、専門のエージェントが各サービスに組み込まれている。 さらに、2025年上半期にパブリックプレビューが登場予定の「Interpreter agent」は、話者の声色を再現しながら音声でリアルタイム翻訳してくれる通訳エージェントであり、日本市場での需要も高そうだ。 2つ目のエージェントのタイプは、「サードパーティ型エージェント」だ。サードパーティのアプリケーションおよびその中の情報と密に連携する外部エージェントとCopilotと連携する。AdobeやSAP、ServiceNow、Workdayなどのエージェントが展開される。 3つ目が、独自のビジネスプロセスに合わせてユーザー企業やパートナーが構築する「カスタマイズ型エージェント」だ。開発基盤として、一般ユーザーや市民開発者向けの「Copilot Studio」、開発プロ向けの「Azure AI Foundry」を用意している。 Copilot Studioは、ローコード・ノーコードで独自のCopilotを作成できるツールで、その中の「エージェントビルダー」では、自然言語での対話を介してエージェントを作成できる。Microsoft 365やDynamics 365、もしくは独自のウェブサイトやアプリケーションに組み込むためのエージェントを構築でき、1400を超えるコネクターで他アプリケーションと連携する。 さらに高度なエージェントの開発向けには、生成AIアプリケーション開発のマルチプラットフォームである「Azure AI Foundry」を提供する。Azure AI Studioをリブランディングしたもので、1800を超えるAIモデルを扱える「Azure AI Model Catalog 」に加えて、ベクトル検索エンジンである「Azure AI Search」、有害なコンテンツを検出する「Azure AI Content Safety」など複数のツールで構成され、各種開発ツールからのシームレスなアクセスや継続的な開発運用のための仕組みも備えている。 AIモデルに関しては、OpenAIの複雑な問題解決に特化したフラッグシップモデル「OpenAI o1」や高品質な動画生成が可能な「Sora Turbo」についても、近々、Azure AI Foundry(Azure OpenAI Service)にも実装される予定だ。NTTの「tsuzumi」といった各国産AIモデルも提供されている。 また、Azure AI Foundryには、AIエージェントの開発に特化したツールである「Azure AI Agent Service」も加わっている。様々なAIモデルからエージェントの脳となるAIモデルを選択して、その脳に独自のナレッジを与えて、各システムやAPIと連携してアクションをとれるようにするための仕組みを提供する。 さらには、「技術だけではなく、組織や人がAIを導入、活用するためのノウハウも必要」と岡嵜氏。その一環として、AIの導入を推進するための組織的なガイダンスをまとめた「Microsoft Cloud Adoption Framework」およびAIの設計、構築、管理の推奨事項をまとめた「Azure Well-Architected Framework」を公開している。 日本でもカスタム型エージェント構築企業が次々と、2025年はAIエージェントの年に マイクロソフトがこうして、AIエージェントを使う・創るための環境を拡充する中で、国内においても独自の「カスタマイズ型エージェント」を構築する事例が増えてきているという。 まずは、トヨタ自動車のパワートレーンカンパニーにおける事例だ。同社は、マイクロソフトと連携してAIエージェント「O-Beya」を構築、エンジニアのノウハウ継承に活用している。車体やエンジンなど、複数の領域で専門性を持つ9種類のエージェントが連携してエンジニアを支援する。「800名のエンジニアが実際に活用している、ものづくりど真ん中の事例」と岡嵜氏。 ソフトバンクでは、現在開発中のコールセンター業務の自動化において、AIエージェントを組み込んでいる。オーケストレーターとなるエージェントが、専門性を持つ他のエージェントや機能と連携して、最適な処理や音声での回答をする仕組みとなる。 JR西日本では、駅員の顧客対応を楽にする鉄道業界特化のAIエージェント「Copilot for 駅員」の開発を進めている。駅での多様な問い合わせに対応すべく、複数の専門知識を持ったエージェントが協働。さらには、AIがデータ活用できるようにデータを収集・整備するAIエージェントも稼働しているという。 他にも、ベルシステム24では、通話データからナレッジベースを自動生成するエージェントを組み込んだコンタクトセンターの自動化ソリューションを開発中。富士通では、AIプロダクトサービス「Fujitsu Kozuchi」において数百のエージェントの社内試用を進めている。大和証券では、マーケット情報や手続きの問い合わせに応対するAIエージェントを構築しており、応対内容に問題がないかをチェックするモニタリングAIも運用しているという。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp