「私のためのドラマだ!」脳梗塞から失語症になった清水ちなみが感じた『アンメット』最後のミヤビの言葉の意味
杉咲花が記憶障害のある脳外科医・川内ミヤビを演じ、若葉竜也演じるアメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治との尊い関係も話題となったドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』。脳梗塞から失語症になったコラムニストの清水ちなみさんも、このドラマにハマって毎週見ていたと聞き、当事者が見た『アンメット』の感想を伺いました。 【以下、ラストのネタバレ含みます】 【画像】清水さんの脳のレントゲン写真。指している箇所が動脈瘤。 清水 病気になる前はドラマを全然見なかったんですが、失語症になってからは言葉のリハビリを兼ねていっぱい見るようになったんです。新しいドラマが始まると、とりあえず見て、半分ぐらいは途中でパスするんですけど、『アンメット』は最後までずっと毎週楽しみに見てました。 ――ドラマの1回目から、清水さんと同じく脳梗塞から失語症になる女優のレナさんが登場しましたよね。 清水 そうでしたね。レナさんはいきなり、メガネとか洗濯バサミとか物がいっぱい並んでいる中から「スプーンを選んでマグカップに入れてください」ってテストをやらされていましたけど、「えっ、最初からこんな難しいことやらされるの?」って思いました。 ――あのテストは難問なんですね。 清水 スプーンを見れば「食べるときに口に運ぶ道具だ」というのはなんとなくわかるんですが、その単語が浮かばないんです。レナさんは最初からスプーンを手に持ったので、すごいなと。脳の損傷した箇所によって失語症の症状も違ってくるし、それによってできることが違ってくるのかもしれませんが……。私が最初にやったのは、犬とか馬とかの絵を見て、「これは何ですか?」という質問に答えるというリハビリだったと思うんですが、もう間違いだらけで。10問中3問しか答えられなかった(笑)。
仕事を諦めたことはない
――『アンメット』でも、レナさんが牛の絵を見て「うし」と書く訓練をしていましたね。あの牛の絵が、清水さんの使っていた教材の牛の絵とそっくりでした。 清水 そうだ、同じ牛だったかも。ああいう教材はそんなに何種類もないですもんね(笑)。あと、このドラマでは、レナさんの耳には相手の言葉がこう聞こえるというのを、「うにゃうにゃうにゃ」って謎の外国語みたいな言葉でしゃべってるように表現してましたけど、私の聞こえ方とはちょっと違うなと思って。 ――清水さんは、相手の言葉は聞き取れていたんですか? 清水 はい、わからない単語はあったけど、旦那が話している内容はなんとなくわかっていました。それに答えようとして、頭では「こう言いたい」という言葉があるんだけど、口から出るときは全部「お母さん」と「わかんない」になってしまっていたんです。 ――レナさんの夫がレナさんに手帳やスマホを見せて「これは何?」と何度も聞いているのを見て、ミヤビちゃんが「できないことをずっと確認されられるのはレナさんも辛いと思う」というシーンがありましたけど、清水さんもリハビリ中、「嫌だな、辛いな」と感じたことはありましたか? 清水 いや、リハビリのテストは本当に難しくて全くできなかったんですけど、「辛い」よりも「なんとかしなくちゃ」という思いのほうが強くて、必死でした。言葉が話せないし書けないっていうのは大変なんですよ。お風呂に入りたいと伝えたいときは、お風呂まで行って扉をバンバン叩いて訴えていましたから。 ――ボディランゲージで伝えるしかないと。 清水 今だったら「尻文字で伝えればよかった」とか思いつくんですけど。あ、ひらがなが書けなかったから、お尻で文字も書けなかったか(笑)。 ――記憶障害があるからという理由で、ミヤビちゃん自身が患者さんの手術をすることを避けていると知った三瓶先生が、「あなたは障害のある人は人生を諦めて、ただ生きていればいいと思っているんですか?」と問いかけるシーンも印象的でした。清水さん自身、失語症になったあと、コラムニストの仕事を諦めようと思いましたか? 清水 諦めたことはないですね。というか、「私は今もコラムニストです」って思ってたわけじゃないんですけど、「いつか失語症になった話を書くぞ」とは思ってました。そうしたら「週刊文春WOMAN」で連載ができるようになって。 ――それが『失くした『言葉』を取り戻すまで』という本になって。 清水 こんなすごいネタがあるのに書けないのはもったいないですよね。本にすることができて、本当によかったです。書くといえば、ミヤビちゃんは寝て起きたら記憶が消えてしまうから、毎日日記をつけていたじゃないですか。私も失語症になる前は日記をつけていて、倒れてからはずっと書いていなかったんですけど、最近またちょこっとずつ書くようにしています。やっぱり日記は大事だなって。