発熱も怪我も怖い…にしおかすみこ、認知症で糖尿病の母とダウン症の姉と薬の話
今年も酔っ払いの父が…
さて、年の瀬も押し迫る頃。 今年も酔っ払いの父が風邪を持ち込み、咳をまき散らし、母と姉にうつった。 去年も一昨年も冬場に1回この同じような流れがあった。 私が都内で一人暮らしをしている頃も、我が家はずっとこうだったのだろうか。 3人各々のベッドでゴホゴホという輪唱を繰り広げている。 姉は熱が出ると涙っぽい顔になる。天井を見つめながら、母のマネなのだろうか、今年を振り返り出す。 「ことしは いっかいでいいから そうめんを たべたかった」 隣で母が「あー、夏ね。そうだね。でも食事はすみちゃんが作ってくれてるから。ママたちは何でも食べられるね。好き嫌いないもんね」と。 姉が殊勝な顔で頷き、目を閉じ、涙が頬をつたった。 ……てめえら、今年も素麺、何回も食べてるからな。何だ、この被害者面の茶番は。目尻に溜まった雫をティッシュで拭ってやり、小さなおでこを軽く撫でながら、すこぶるイライラした。
風邪薬じゃなくて
母がポツリと言う。 「それはそうとさ、風邪薬じゃなくて、忘れるのを治す薬はないかねえ。治さなくてもいいから現状で止めるのないかねえ?……ねえ?」 「……病院行って、先生に相談してみる?」 「いい。行かない。どうせ精神状態を落ち着けるか、やる気を出すかの薬だろう。それは知ってる。何種類かあるし、人によって合ったり合わなかったりする。そういうんじゃなくて……もういい。……はぁーあ、今年も来年も再来年も生きてる限りどうしようもない。寝ても真っ暗!起きても真っ暗!お先真っ暗のクラックラ!」と吐き捨て、掛布団の中に頭を潜らせた。 ……その腐っても元看護師な感じ。それに最後、何、そのネガティブギャグみたいの。私が読んだどの認知症の本にも、認知症が韻を踏むって書いてない。 私はそっと部屋を後にした。台所でコーヒーを立ち飲みする。薬については実家に戻ってすぐの頃、一応考えたんだよなあ。3年ほど前の記憶を頭上にくゆらせる。