「『もののけ姫』はずっと念頭にありました」フランスで観客動員100万人突破の大ヒット映画『動物界』の監督が語る「宮﨑駿の影響」
宮﨑駿からの強い影響
――自分とは異なった存在への恐れと、共生と排斥の間で揺れる感情を人間は新生物たちに対して覚えます。こうした構図からはたとえば宮﨑駿の諸作品や、ケヴィン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』などを連想しますが、本作に示唆を与えた作品についてお教えいただけますか。 新しく触れる存在に対して、人間はどのような反応をするか。好奇心や愛情をもって、受け入れようとする人もいれば、嫌悪感や恐れをもって、拒絶しようという人もいる。どちらも人間的な感情に根差したものだと思います。 宮﨑駿の作品については、本作を作る中ではずっと念頭にありました。とりわけ、『もののけ姫』ですね。ほかの宮﨑作品にも言えることですが、『もののけ姫』のなかでは、人間が暮らすコミュニティと、動物たち、あるいは人知を超えた生きものが暮らすコミュニティの間には、明確な境界線はありませんよね。そして、作品の最後には「共生」のメッセージが強く打ち出される。そうした姿勢は、私の描きたかったことととても近いように感じていました。 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』については、私の頭には浮かばなかったのですが、ただあなたのおっしゃる通りだと思います。人間と動物、人間と自然といった対比のみではなく、この場合は白人とインディアンですが、同じ人間に対しても、種族が違うというだけで排斥しようという動きが生まれますし、同時に拒否感のみではなく、惹かれる思いを感じることもある。そうしたアンビバレンツな思いを考えるうえでは、たとえばポン・ジュノの『グエムル-漢江の怪物-』や、スティーブン・スピルバーグの『E.T.』なども心の中にありました。 ――フランソワとエミールの親子の関係は、最初は一面的なものから(フランソワがエミールを従わせようとするものから)次第に相互理解へと向かっていきます。それは本作の世界観の象徴であるようにも感じましたが、親子関係を描くことへの想いをお教えください。 象徴的なシーンについてお話しますと、まず、映画の最初のシーンですね。フランソワとエミールが車に乗っていて、エミールが出ていこうとすると、フランソワが力づくで止めます。一方でラストシーンでは、今度はフランソワが車のドアを開けて、エミールが自発的にそこを出ていく。束縛する形から、信頼する形へと変わる。そうした変化が説得性を帯びるように、父と子が辿ってきた軌跡を丹念に描くことは意識していました。地球における人間のあり方に加え、そうした親子関係のあり方についても、観客が考えるヒントを得てくれれば嬉しいですね。
若林 良(映画評論家・ライター)
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