「『もののけ姫』はずっと念頭にありました」フランスで観客動員100万人突破の大ヒット映画『動物界』の監督が語る「宮﨑駿の影響」
人間は常に「過渡期」にある
――人間が動物に変わっていく世界、というと末期的な状況を思わせられますが、本作はむしろ過渡期といいますか、人間が新しい状況に順応していく様を感じられます。まさにコロナ禍の人間の状況を思わせられますが、そうした社会的な目配せもあったのでしょうか。 近年、文明の発達は著しいですし、人間は進化の最終段階に来ているんじゃないかと思う方もいるとは思います。でも、そうではなく、私たちは今も進化の途上にある。1000年後の人間のあり方はまったく予想ができませんし、生まれて以来、常に人間は過渡期の中にあるんです。 パンデミックはまさに、そうした「過渡期」を思い起こさせてくれる出来事でした。かつ、人間が環境の変化に順応していくということを改めて認識する契機にもなりました。ですので、私が『動物界』について言えることは、映画の中における人間たちは、新たな段階のスタート地点にあるということなんですね。動物になるということは、何も人類の終焉だとか、退行を意味しているのではなく、むしろ未来への前進であると考えています。 ――本作における「新生物」たちは人間にとっての脅威となるというよりも、むしろ人間に排斥される弱い存在であるように感じられます。ADHDを告白するエミールのクラスメイトの存在もあり、新生物はいわゆるマイノリティの表象であるようにも感じられました。 人間はすぐに「基準」を作りたがる傾向があると思います。これが「ふつう」なのだと決めて、その「ふつう」から外れたものは蔑んだり、下に見るようにも感じます。ただ、人間の作る「基準」が絶対的なものなのかと言えば、もちろんそんなことはありません。 巨視的な話になりますが、人間が「人間」として地球に存在しているのは、単に遺伝子のちょっとした変異に過ぎないわけですね。進化の道筋が少し違っていたら、私たちは海に漂う藻のような存在であったかもしれません。ですから、たまたま生まれた人間が作った身勝手な「基準」に拘泥するのではなく、そうした基準から離れた存在について、広く考えたいと感じていたんです。
【関連記事】
- 「奇跡的な出会いで結婚した妻」を失った男が伊豆の海にスマホを投げる…ヴェネツィア国際映画祭で大絶賛された映画の監督が語る「不可解なシーンの真意」と「演技経験ゼロ」の俳優を起用する理由
- 「英国のシンドラー」を演じたアンソニー・ホプキンス…監督が語った、猟奇殺人犯「レクター博士」とは「180度違う演技」
- 「野グソにはたまらない爽快感がある」「まるでスポーツ」…「グレートジャーニー」で知られる75歳の探検家が「うんこと死体」にここまで熱を入れる意外な理由
- 妻が村の権力者と再婚…23年間消息を絶っていた男が、「記憶」と「言葉」を失い、帰ってきた…変わりゆくキルギスを描いた話題作
- 映画『ヤジと民主主義』…本当の民主主義の実現のために「ヤジ排除訴訟」から考える「行政権」との向き合い方