不眠症の経過を大きく左右する「信念と態度」とは 単なる眠れない病気ではない不眠症
「不眠症状」のある人の中で「不眠症」と診断されるのは実に半数以下
「不眠症」とはどのような病気だろうか? 寝つきが悪い、途中で目が覚めるなどの「不眠症状」がある病気? 睡眠時間が短くなる? 睡眠の質が低下する? いずれも不眠症の特徴の一部を説明しているが本質的な問題ではない。 【図解】睡眠薬の上手なやめ方 例えば、不眠症状があってもそれに伴う心身の不調がなければ不眠症とは診断しないことになっており、実際、不眠症状のある人の中で不眠症と診断されるのは半数に満たない。不眠症状があっても元気に過ごしている人も多いのである。また、不眠症患者の中には同年代の人と比べて睡眠時間や睡眠の質が同程度の人もいる。それにもかかわらず不眠による不調に苦しんでいるのである。 つまり、不眠症とはどのような病気なのかを簡潔に表現すれば、「不眠症とは眠れない病気ではなく、眠れないことを苦にする病気」とまとめられる。 では少し目先を変えてみよう。以下の項目は、ご自身にはどの程度当てはまるだろうか。 1. 健康維持には8時間睡眠が必要 2. 眠れなかった翌日は昼寝をしたり長く寝たりしなくてはダメ 3. 眠れないと活動や楽しみごとなどが全て台無し 4. 疲労、いらいら、落ち込み、不安の原因は全て不眠 5. 自分の眠りをコントロールできない。今晩眠れるか予想できない 6. 眠れないより睡眠薬を飲んだほうがよい。他に方法がない これらは不眠に悩む人にしばしば見られる眠りに関する不安やこだわりのリストである。元になったのは、カナダの著明な睡眠研究者であるCharles M. Morinが作成した「睡眠に対する非機能的な信念と態度(The Dysfunctional Beliefs and Attitudes about Sleep 、DBAS) 」という不眠症患者向けの自記式の質問票で、日本語版も作成されている。オリジナル版は16項目あるのだが、筆者がそのエッセンスのみをピックアップして文言も短く修正した。 読んでいただけば分かるが、眠りに困っている人であればさもありなんと言った心配事が並べられている。 オリジナル版では16項目にそれぞれ「非常に当てはまる(10点)」から「全く当てはまらない(0点)」まで11段階の得点が割り当てられていて、満点は160点となる。眠りに困っていない人は20点~30点である一方、不眠症の人は60点~70点以上になることが多く、100点以上も稀ではない。得点が高いほど生活上の支障が大きく、また睡眠薬など薬物療法の効果が出にくいことが分かっている。 すなわち、不眠症患者では「眠れないことを苦にする」ゆえに非機能的な信念と態度が目立ち、そのことが不眠症の重症度や治療効果を左右する。その良い指標がDBASなのである。