スティーブ・ジョブズが「送るべきでなかった」メールの内容公開。簡潔明快でもダメだった
逆にはっきりしすぎるメールがダメなことも
次に、ジョブズが書いたメールのうち、明確で簡潔、要点を押さえてはいるものの、送信するべきではなかったものの例をご紹介します。 2005年、彼とAdobe CEOのブルース・チゼンの間にあった合意に反して、Adobe社がApple社の社員をヘッドハンティングしていることを知ったジョブスは、チゼンにまずこうメールを送信しました。 Adobe社が弊社の社員をヘッドハンティングしているようです。もうすでに1名の採用を終え、さらに多くの社員にアプローチしているようです。 弊社の人事では、Adobeからはヘッドハンティングしないという方針ですが、御社ではどうやら違っていたようですね。 この方針、御社か弊社、どちらか一方が見直す必要があります。さて、どちらが見直すべきか、ご教示ください。 ややパッシブ・アグレッシブ(受動攻撃的)で嫌味な感じですが、最後の2文はちょっとおもしろいですね。 このメールに対し、チゼンの返信はこちら。 シニアレベルの社員(弊社においてはシニアディレクターやVPレベルで、社員全体の約2%)はヘッドハンティングしないと合意したと理解しています。 それより下の人材には御社の採用担当者もアプローチしていると思います。 現状の合意でいいのでは? はっきりさせておきたいので、ぜひ話し合いましょう。 むだに長い前置きも形式ばった言い回しもなく、チゼンのメールは、ポイントを押さえつつも話し合う余地を残していました。 これに対して、ジョブズは、 了解です。それでは、弊社の採用担当には、シニアディレクターやVP以外の社員になら自由にアプローチしても構わないと伝えます。それでいいですね? Apple社同様、Adobe社でも社員の引き抜きをよく思わないことを熟知しているジョブスは、チゼンの反論を促しました。 チゼンの回答はこうです。 お互いに積極的にはヘッドハンティングしない方向での合意が望ましいです。社員から自発的に応募があった場合はその限りではないでしょう。 それでよければ、弊社のスタッフにもそう伝えます。 こうして、両社におけるヘッドハンティングの制限は、わずか4回のメールのやりとりで合意に至りました。 スピード感と効率の良さにおいて秀逸とも言える合意ではありましたが、実際にはこの合意は形成されるべきではなかったのです。 2010年に提起された反トラスト訴訟と民事訴訟の結果、Adobe、Apple、Google、Intelの4社は、お互いのハイテク人材の引き抜きを控える、いわゆる「社員引き抜き禁止協定」を結んだとして、4億1500万ドルの和解に同意しました。 こうした合意があったことは疑いの余地がないでしょう。ちなみに、2005年、ジョブズは、自社のウェブ・ブラウザ、Safariの部署から人材を引き抜かないよう、Google社のセルゲイ・ブリンに対してメールで通達しました。 ジョブズはこのとき、「ひとりでも引き抜いたら、そのときは戦いを辞さない構えだ」と述べていたといいます。 ただ、そんなやり方で社員の自由を制限するのは好ましくないでしょう。 (コミュニケーションの達人、クリス・ロックの言葉に「足で車を運転することができたとしても、やらないほうがいいに決まっている」とあるのですが、)社員が自らの実力に見合った市場価値を最大限に引き出そうとするのを阻止するような措置をジョブスは提起したり、講じたりすべきではなかったでしょう。 優秀な社員の流出を企業側が食い止めたいのは理解できますが、それは給料や福利厚生、将来性などを充実させて「選ばれる就職先」になって実現するべきことです。 結局のところ、明確で効果的に書いたり話したりなど、効果的なコミュニケーションが重要なのは間違いありませんが、伝える内容のほうがもっと重要です。 Souece: YouTube(1,2), The Steve Jobs Archive, Internal Tech Emails, Wikipedia Originally published by Inc. [原文] Copyright © 2024 Mansueto Ventures LLC.
永木久美/OCiETe