〈知識や経験より忠誠心〉トランプが新政権で重用する“しがらみがない人々”のリスク「露のプロパガンダに乗って…」
次期大統領となることが確定したドナルド・トランプ氏。その勝因と今後の政策について、サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏、前駐米大使の冨田浩司氏、ジャーナリストの峯村健司氏が語り合った。 【画像】トランプが「氷の乙女」と呼んだ、選挙参謀のスーザン・ワイルズ(67) ◆◆◆
「氷の乙女」の剛腕
峯村 トランプの勝因についても考えてみます。過去30年の大統領選で各陣営の資金力を調べると、ほぼ例外なく資金力のある方が勝っています。ところが、トランプ陣営の資金はハリス陣営の7割ぐらいしかなかった。それでも勝てたのは、選対本部長を務めたスーザン・ワイルズの力が大きかったと思います。 冨田 トランプは彼女を「アイス・メイデン(氷の乙女)」と呼んでますね。 峯村 ワシントンのコンサル界では、ドン的な存在として一目置かれていました。私も会ったことがありますが、笑顔でも目が全然笑ってない(笑)。緩いトランプ陣営を彼女が氷の眼差しで引き締めていたんですね。激戦州ではカウンティ(郡)単位で厳密に情勢を分析して戸別訪問を徹底した上で、多額の広告費を突っ込んで派手にPRを展開する。大胆にして緻密な戦略でした。 冨田 今回のトランプ・キャンペーンは、これまでとは違い内部抗争もリークもなく、プロフェッショナルの仕事だった。それもこれも、彼女の剛腕があってこそでしょう。 峯村 特に「トランプのゴミ収集車」の演出は彼女の真骨頂でした。選挙戦の最終盤にトランプの応援集会でコメディアンが「プエルトリコはゴミの島」と言ったんですね。この時は「これでトランプは負けたな」と私は思いました。 冨田 勝敗を決するペンシルバニア州でプエルトリコ系は42万票もありますからね。 峯村 ところが2日後、今度はバイデンが「唯一のゴミはトランプの支持者たちだ」と口を滑らせた。するとワイルズは、24時間経たないうちに、「TRUMP2024」のロゴ入りゴミ収集車にトランプ本人を座らせて会見を開き、その写真をSNSで流してバズらせた。これでプエルトリコ票がかなり戻ったと思います。敵失を逆手にとる「えげつない一手」でした。 冨田 ワイルズは大統領首席補佐官に任命され、ホワイトハウスを仕切ることになる。「トランプ2.0」と呼ばれる新政権の人事と政策を検討しましょう。 米大統領は2期までなので、トランプ政権は4年で終わり。2026年秋の中間選挙までに公約を果たさないといけない。そのためには第1期政権で経験したような“ロードブロック”、つまり、議会や官僚組織の抵抗を最短距離で突破していく必要があります。 新浪 この2年でインフレを退治し、中国を筆頭に貿易赤字国に高い関税をかけ、1100万人もの不法移民に対処しようと躍起ですね。そのためにディープステートをターゲットにする方針が明確だと思われます。 ただし、大量の不法移民を強制送還するとなれば、介護などのエッセンシャルワーカーやサービス業での働き手がいなくなります。彼らが強制送還を恐れるようになれば、経済のマインドが冷え込みます。その点も踏まえた経済政策に明るい人材を見つけることが重要だと思います。