女性という「ハンデ」があったから強みを見つけられた:「鮨 めい乃」幸後綿衣
白木のカウンターを挟んだ1mにも満たない距離から、始終スマートフォンのレンズを向けられる。なかには望遠カメラを構える客もいる。「まだまだ女性が珍しいからでしょうか」と涼やかにほほ笑むのは、すし職人の幸後綿衣だ。34歳になった昨年、東京・麻布十番に自身の店をオープンさせた。8席のカウンターを中心に、ひと晩2回転。1人5万円からの“おまかせ”のみで、半年先まで予約で満席だ。 男性が圧倒的多数の業界だからこそ女性にチャンスがあるはず、と大学卒業後、厳しいすし職人の世界に飛び込んだ。根底にあったのは「どんな場所でもいちばんになれ」という父の教え。すしなら世界にも打って出られる。これだ、と思った。 名だたる店での修業は、男性との体力の差という逃れようもないハンデを思い知らされた。そこで「誰にも負けない強みを身につけたい」と、1年間板場を離れて、仏ブルゴーニュ地方でワインについて研さんを積む。現在、店内とカーヴに2000本近いボトルを保有し、客の幅広い要望に応える。 テレビ番組で取り上げられたこともあり、幸後のもとには若い女性の弟子入り志願が絶えない。「私に憧れてすし職人を目指したなんて聞くと、放っておけなくて」と照れながら話す彼女は、今や7人の従業員を抱えるれっきとした親方だ。店舗経営、若手の育成など責任は大きいが、すでにミシュランも視野に入れる。目指すのは、世界に認められる「オンリーワン」だ。 こうご・めい◎1989年生まれ。上智大学卒業後、東京すしアカデミーに入学。「すし匠」「西麻布 拓」「鮨 あらい」にて約10年の修業を重ね、ソムリエ資格も取得。2023年11月独立し、「鮨 めい乃」開店。今後は月初めに予約を受け付ける予定。
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