【2024年WRC開幕直前イチから学ぶ】ラリーってどんなレース?ゼロから始めるWRC観戦/入門編
いよいよ2024年のWRC世界ラリー選手権が1月25(木)から28日(日)にかけて、モナコとフランスで行われる伝統の一戦『ラリー・モンテカルロ』にて開幕する。 【写真】これまでの青基調のカラーから白をベースとしたカラーリングに変更されたフォード・プーマ・ラリー1 今回は、初めてのラリー観戦となるファンでも、もうすぐ始まる新シーズンのWRCを楽しめるよう、あらためてラリーというカテゴリーについてや、2023年シーズンからの変更点と参戦車両の紹介、各種情報の整理を行っていく。 ■ラリーとはどんなスポーツなのか 1973年に創設されたWRCは、今年でシリーズ51年目を迎える。F1や日本のスーパーGTのようにクローズドサーキットの周回で争われるレースとは違い、ラリーは封鎖された一般公道や林道、農道などを用いて行われる。そのためマシンが走行する路面は多岐にわたり、ターマックと呼ばれる舗装路をはじめ、グラベル(未舗装路)、アイスバーンに圧雪路など、全環境の路面で行われることが特徴だ。 また、同じターマックやグラベルの括りにあっても、国や地域が違えば路面の性格はまったく異なる。それを作り出すステージ周囲の自然環境もラリーを見るうえで楽しみたいポイントだ。 そんなラリーの競技の進み方について紹介しよう。WRCを含む多くのラリーでは、数百キロに及ぶ長い全行程をいくつかのスペシャルステージ(SS)と呼ばれるタイムアタック区間に分ける。SSでは1台ずつタイムアタックが行われ、タイムの速さを競っていくわけだ。そして大会をとおして走った全ステージのタイムを合算し、それがもっとも短いドライバーがラリーの勝者となる。 このようにして勝者が決まるラリーだが、他のカテゴリーと大きく違う点のひとつとして挙げられるのは、ドライバーとともに戦う“コドライバー”の存在だろう。 各ステージの道のりは長いため、ラリーではコドライバーと呼ばれるナビゲーション要員がクルマに同乗している。競技中ドライバーとコドライバーはつねに無線で意思疎通ができるようになっており、コドライバーは自分たちがより速く走るために必要なステージの道順や、迫りくる路面の状況をドライバーに伝えている。 その時にコドライバーが頼りにしているのは、“ペースノート”というコースについて情報がまとめられたメモだ。このペースノートに書かれたインフォメーションを基に、待ち受ける数個先のコーナーの情報を正確無比にドライバーに伝え、ドライバーがステージを正しくイメージするための補助を行っている。 クルーたちはこのペースノートを作成するために、ラリーが始まる前に“レッキ”と呼ばれる偵察走行を実施する。WRCではおおむね大会開催週の月曜日から数日かけて行われる。このレッキではチームの用意した乗用車に乗り込んだクルーが定められたスピードで実際のステージを走り、道路の広さやガードレールやの位置、コーナーの長さや次のコーナーへの距離、段差の有無や凹凸などを含む路面の特徴など、ありとあらゆる要素を観察し、それらを把握しながらペースノートを作っていく。 ■実際の大会の進み方をおさらい さて、具体的にラリーイベントがどのように進行していくのかをおさらいしてみよう。 週末のスケジュールは、前述のレッキに続くシェイクダウンと呼ばれるステージから始まる。シェイクダウンは、ドライバーたちがラリーカーに乗ってレーシングスピードで走る最初の機会だ。ここでは5km前後の短いステージを数回走ることができ、マシンのコンディションや路面の状況を確認することで週末全体へ向けてのウォームアップを行っていくステージとなる。 大体の場合、木曜日にシェイクダウンと大会を華々しく彩るセレモニアルスタートが行われ、その後市街地や特設ステージを舞台に距離の短いスーパーSSが実施され、これがオープニングステージとなる。本格的な戦いは金曜日から日曜日にかけての3日間。金曜の早朝からは連日、タイムアタック区間のSSを走り重ねながら日曜の午後に設定された最終ステージのフィニッシュを目指していく。1大会でのSSの数は20前後だ。 ほとんどの大会では最後のSSが“パワーステージ”と呼ばれる特別なステージに設定されている。同ステージでは総合順位にかかわらず、ステージタイムに応じて上位5台のクルーとマニュファクチャラーに最大5ポイントのボーナスポイントが付与される。 また、ラリージャパンの豊田スタジアム内で開催されたステージに代表されるスーパーSSでは、特定のエリアにコースを設けることで、観客がその走りを近くで見ることができる。実際に観戦してみても、2台が同時に走ってタイムを競う様子は白熱し、中継映像で見る戦いとは明らかに異なる雰囲気を味わうことができる、特別なステージとなっていた。 アタックに入るドライバーの出走順は、“フルデイ”の初日となる金曜ではポイントランキングの上位から、土曜日以降は当該ラリーの総合順位で下位になっている選手から順番にステージに出ていく。 この走行順により不利・有利が生じることは少なくない。最初にアタックを行う選手は、路面上に堆積した“ルーズグラベル”と呼ばれる細かい砂や砂利、新雪などを払いのけながら走ることになるため、後続車両のタイムと比較したとき後れを取りがちだ。ステージはクルマが走れば走るほど路面がクリアになり、本来のグリップが得られるようになる。つまり、出走順が遅いほど路面の状況は良くなっていくのだ。ただし、これは路面が乾いたグラベル(未舗装路)や新雪が積もったスノーステージの場合に起きること。 ターマック(舗装路)の場合にはこれが逆の状況となり、各マシンが泥やほこりを巻き上げながらステージを通過し、コーナー部では“インカット”と呼ばれるショートカット走行によって路面が徐々に汚れていくため、出走順が遅くなるにつれ路面コンディションが悪化していく。また雨で濡れたグラベルステージでは道が荒れていくため、やはり出走順が後ろになるほど不利になる。この逆転現象も、ラリーが持つ難しさであり面白さのひとつだ。 コドライバーに並ぶラリー特有の要素ふたつめは、マシン整備についてだ。サービスパークと呼ばれる整備拠点を出てマシンがチームメカニックの手を離れると、その後は選手たちの手でトラブルやアクシデントに対処しなければならない。 例えばスペシャルステージ中にタイヤのパンクが発生した場合、ドライバーとコドライバーが自らタイヤ交換を行う。また、ステージ上でクラッシュを喫したりメカニカルトラブルなどが発生した場合も、競技に復帰するためにステージ上、もしくはステージとステージの間、ステージとサービスを結ぶリエゾン(移動区間)で自らマシンの修理を行わなければならないのだ。そのためクルーたちには迅速かつ正確な整備スキルと、マシンに対する深い理解が求められる。 足回りが完全に壊れるなど現場での修復が不可能で、競技続行が困難な場合はデイリタイアとなる。運搬されたクルマはサービスで修復が完了すれば翌日からの再出走も認められているが、横転などで万が一シャシーにダメージに負った場合は、安全上の観点から出走は認められず大会からリタイアすることとなる。 なお、チームが行うサービスでの整備時間についてもレギュレーションの定めがあり、ステージ開始前の15分間、日中の40分間、1日の終わりの45分間といった規定時間にのみ作業を行うことができる。デイリタイアした車両の修復作業は最大4時間だ。 続いては、全部で13ラウンドが予定されている2024年シーズンのカレンダーをおさらいしよう。 ■WRC世界ラリー選手権 2024年シーズンカレンダー(1月19日時点) Round/Date/Event Rd.1/1月25~29日/ラリー・モンテカルロ Rd.2/2月15~19日/ラリー・スウェーデン Rd.3/3月28~31日/サファリ・ラリー・ケニア Rd.4/4月18~21日/クロアチア・ラリー Rd.5/5月9~13日/ラリー・ポルトガル Rd.6/5月30日~6月2日/ラリー・イタリア・サルディニア Rd.7/6月27~30日/ラリー・ポーランド Rd.8/7月18~21日/ラリー・ラトビア Rd.9/8月1~4日/ラリー・フィンランド Rd.10/9月5~8日/アクロポリス・ラリー・ギリシャ Rd.11/9月26~30日/ラリー・チリ・ビオビオ Rd.12/10月31日~11月4日/セントラル・ヨーロピアン・ラリー Rd.13/11月21~24日/ラリージャパン 年間スケジュールのうち10戦はヨーロッパ諸国での開催。そこにアフリカのケニア、南米のチリ、そして唯一のアジアラウンドとなる日本を加えた全13戦が戦いの舞台となる2024年WRCは、雪やアイスまじりのターマック(舗装路)が舞台となる伝統のラリー・モンテカルロで開幕する。 続く第2戦ラリー・スウェーデンではフルスノー、第3戦は野生動物にも遭遇するサバンナを疾走するサファリ・ラリー・ケニアへと移動していくシーズン序盤を見てもわかるように、WRCでは各ラウンドごとに置かれる環境がガラリと変わることも珍しくない。毎回のように変化するステージ特性、コンディションのなかでつねに安定した成績を出し続けることが、チャンピオン獲得に不可欠だ。 新しいカレンダーの中で新たに追加されたラウンドはふたつ。第7戦ラリー・ポーランドと第8戦ラリー・ラトビアだ。ポーランドは2017年以来、7年ぶりにWRCの一戦に復帰した。一方のラトビアは欧州シリーズのERCヨーロッパ・ラリー選手権で行われていたイベントが、WRCイベントに昇格して念願のカレンダー入りを果たした。 シーズンの最終盤では、今季も“シーズンフィナーレ”としてラリージャパンが開催される予定となっている。日本でのWRC開催は2022年シーズンから本州の愛知・岐阜エリアに舞台を移して以来、年々盛り上がりを増してきており、2024年シーズンの戦いを見守った日本のファンにとっては、その締めくくりを間近に見られる絶好の機会だ。 ■導入3年目を迎えたハイブリッドマシン“ラリー1” WRCに参戦するクルマは、乗用車に比べてあらゆる衝撃に耐えるためシャシーの補強やロールケージの追加、強化サスペンションの搭載がなされ、さらには安定性を高めるエアロパーツを装着するなど、走りの安全性を高めるための改造が各所に施されている。 現在の最高峰カテゴリーであるラリー1クラスは、トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードの計3チームが参加しており、各社がメーカーの威信をかけて覇を争っている。この3つのチームは、2022年に導入された車両規定のもとプラグイン・ハイブリッドシステムを搭載したラリー1規定のマシンをシリーズを投入しており、いずれのマシンも今季が3シーズンめとなる。 ラリー1規定は、サステナブルな将来においてもさらにマシンの速さを追求することができるように、2022年シーズンに導入された新規定だ。外部からの充電に対応したプラグイン・ハイブリッドシステムを搭載しており、サービスパーク内やリエゾンの指定区間ではEV走行を行う。さらに燃料には100%非化石燃料を使用している。 ヒョンデ、トヨタ、Mスポーツ・フォードの3メーカーが開発しているラリー1マシンは、最大100kW(約135PS)を出力するハイブリッドシステムと、1.6リットル直列4気筒直噴ターボエンジンが組み合わさってできたパワートレインを搭載しており、4輪駆動で500馬力以上を発揮する性能を持つ。 ハイブリッドカーとなったラリー1マシンは、ブレーキ時にモーターを利用して運動エネルギーを回生し、そこで貯蓄したエネルギーを使って追加のパワーを得ることができる。電気モーターによるエキストラパワーは、アクセルペダルを踏む際に最大135馬力のブーストとして表れるが、その出力は事前に設定した3つのマップに従って解き放たれる。チームはステージの特徴や天候に合わせて、3つのマッピングから出力特性を選択することができ、サービスを出る際にこのうちのひとつを設定する。 このほかラリー1カーの特長としては、スケーリングを導入することでベースとなる市販車のサイズや形状によるパフォーマンスの差を小さくしているほか、チューブラースペースフレーム構造として安全性が大幅に高められている。また、コスト削減の一環から従来規定(WRカー規定)で採用されていたアクティブセンターデフは禁止に。さらにパドルシフトも使用不可となり5速シーケンシャルシフトが用いられている。 タイヤはピレリのワンメイク。ターマックラリーではF1などでもおなじみの『Pゼロ』とウエット用の『チントゥラート』が使用され、グラベルラリーは『スコーピオン』が用いられる。圧雪路を走行するスウェーデンでは鋲付きのスパイクタイヤ『ソットゼロ』が活躍する。ソットゼロにはスタッドレスタイプも用意され、主にモンテカルロで使用される。 WRCについて大まかに紹介した入門編はここまで。次回は、トップカテゴリーに参戦するドライバーや2024年シーズン注目の要素を解説する。 ■ラリー1車両諸元例(トヨタGRヤリス・ラリー1) 寸量および重量/ 全長/全幅/全高/4225mm(空力パーツ込)/1875mm/調整可能 トレッド幅/調整可能 ホイールベース/2630mm 最低重量/1260kg エンジン/ 形式/直列4気筒直噴ターボエンジン(およびハイブリッドパワーユニット) 排気量/1600cc 最高出力/500馬力以上 最大トルク/500Nm以上 ボア×ストローク/83.8mm×72.5mm エア・リストリクター/36mm(FIA規定による) トランスミッション/ ギアボックス/機械式5速シフト 駆動方式・差動装置/4WD、機械式ディファレンシャル×2 クラッチ/焼結ツインプレート・クラッチ シャシー/サスペンション/ フロント/リア/マクファーソン・ストラット ダンパーストローク量/270mm ステアリング/油圧式ラック&ピニオン ブレーキ・システム/グラベル用:300mm、ターマック用:370mm [オートスポーツweb 2024年01月24日]