「無事があたりまえ」ドラマで憧れて、緊張感と達成感が日々あるエアラインエンジニアに
「飛行機を絶対に安全に飛ばす」責任感
大学院修了後、14年に念願のANAに総合職技術職(現・グローバルスタッフ職)で採用されました。入社後は、整備センター機体事業室ドック整備部に配属され、航空整備士としてキャリアをスタートしました。 ドック整備というのは飛行機が安全に飛べるように、格納庫(ドック)で行う定期点検や整備作業のことです。飛行機の表面を覆っているパネルなどを開け、細部まで徹底的に点検や不具合修理を行い、再度完全な状態にして送り出します。車で例えると、車検のようなものです。実際に自らの手で飛行機を整備することを通して、飛行機のどこに何が装備されているか、どのように動作するのかといった基本的な機体の知識や、整備に必要な基礎的なハンドスキルなどをイチから身につけました。また、難易度の高い作業、責任の重い作業に対する確認を行えるような整備士になるには、4年以上の実務経験を経て、国家資格を取得する必要があります。藤内さんは国家資格取得を目指すための様々な社内トレーニングを受講し、18年に一等航空整備士試験に合格しました。 「飛行機が安全に飛ぶことは、利用者の方にとっては『あたりまえ』です。そんな『あたりまえ』を実現するために、運航に携わるチームANA全員が強い責任感を持ち、日々の業務にあたっています。時には、あと1時間でお客様が搭乗し始めるという時間的な制約がある状況に直面することもあります。その緊迫したなかでも、それぞれが与えられた役割を完璧にこなし、一致団結してパフォーマンスを上げていきますが、その瞬間の緊張感と、成功したときの達成感に大きなやりがいを感じました。何事もなく、無事に飛行機を見送ったときのほっとした気持ちや、チームで成し遂げた喜びは何にも代えがたいです」
「やりたいことに出合う」のが大事
現在、藤内さんは航空整備士とは別のエアラインエンジニアの役割である「機体技術部門」でキャリアを広げています。具体的な業務としては、航空整備士が使用するマニュアルや手順の管理のほか、航空機の整備に関わるシステムの活用方法を検討します。英語のマニュアルや手順書を読む機会も多く、大学時代に英語の論文を読み書きした経験が生きているといいます。 航空整備士を含むエアラインエンジニアも、女性はまだまだ少ないのが現状で、藤内さんの同期入社も女性比率は2割程度でした。男性が多い職場での「働きづらさ」はないのでしょうか。 「女性のエンジニアは人数が少ないため、良くも悪くも目立ちます。私が知らなくても、向こうは私を知っているということはよくあります。でも、どんな状況も前向きにとらえ、一人のエンジニアとしてみんなと一緒に頑張ることを心がけてきました。同期の男性たちが対等に接してくれたことも、女性をそれほど意識せずに済んだ要因だったかもしれません」 最後に、これから進路を考える中高生へメッセージを送ってもらいました。 「大学で学びたいことが見つからない、という人もいるかもしれません。ちょっとしたきっかけで『面白いかも』と思ったことがあれば、そこで止めずに、その先を少しだけ追いかけてみてください。やりたいことに出合うきっかけは、そんなところにあると思います」 航空宇宙工学は様々な基礎工学、要素技術の複合的な学問であり、理工系の学部に進学すれば基礎的な部分はすべて学ぶことができます。また最近はエアラインエンジニアの業務や航空産業に特化した学部などを設置する大学も増えてきているため、そのような学校に進学して、包括的に学ぶのも一つの方法です。 桜美林大学航空・マネジメント学群の航空機管理コースは、航空各分野の基礎知識を横断的に学びます。海外研修やインターンシップでの実習などを通して航空機管理業務の一部を体験し、経済学や経営学の素養や経営マインドなども身につけます。久留米工業大学交通機械工学科では、基礎となる工学を統合的に扱い、モビリティ(交通機械)の設計・開発・製造・整備に関する技術を実践的に学びます。演習や実習を通して「ものづくり」を実際に体験します。中部大学理工学部宇宙航空学科では、学際的・複合的な宇宙航空理工学に関する教育研究を行い、新しい航空機やロケット、人工衛星、宇宙探査機、宇宙ステーション等を包含する次世代宇宙航空産業における設計・開発・製造・利用技術に関わる科学技術者を育成します。 自分の興味のあることに近い大学を、オープンキャンパスやホームページで調べてみましょう。
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