【全日本大学駅伝】初優勝の國學院大・MVP山本歩夢、苦しい時期にかけられた平林清澄からの言葉「ずっと待ってるから」
11月3日に開催された第56回全日本大学駅伝で、國學院大學が大学史上初の日本一をつかみとった。これで出雲駅伝に続く二冠。6区を走った山本歩夢(4年、自由ケ丘)が区間新記録を樹立しMVPを獲得した。山本は「みんなが取らせてくれた区間賞です」と仲間に感謝した。 【写真】平林清澄が走っているとき、駒澤大の大八木弘明総監督が前とのタイム差を伝える場面も
「歴史を変える挑戦」のスローガンのもとに
今年の國學院大のチームスローガンは「歴史を変える挑戦~ep.3」。2010年度エピソード1の時はチーム史上初の箱根駅伝でのシード権を獲得、2019年度エピソード2の時は出雲駅伝初優勝、箱根駅伝総合3位を達成と、いずれも目に見える結果を残してきた。 今年のチームになってから、選手たちは「勝ち切る」ことをテーマに常に取り組んできた。「勝ち切る」目標を全員に浸透させることから、行動に移すことまで。それが実り、出雲駅伝では5年ぶりの優勝を果たした。 前日会見で前田康弘監督は「出雲は勝てましたが、全日本は簡単に勝てるものではないとわかっています。しかし、我々は初の日本一にチャレンジするつもりで名古屋に乗り込んできました。選手たちも自信を持ってスタートラインに臨める状況です」と強い思いを口にした。「歴史を変える挑戦」のスローガンのもと、箱根駅伝総合優勝はもちろん、全日本大学駅伝で優勝して日本一になろう、という気持ちでここまでやってきた。 「ここまで順調にきているので、結果で明日証明したいです。応援してくれている方々にも、堂々と日本一になるところを見てもらいたいと思っています」とし、出雲で優勝したことで選手の気持ちも体も充実していると自信をにじませた。
「次のランナーのことを考えて」全員駅伝の勝利
迎えたレース当日、スタートの1区を担当したのは嘉数純平(3年、北山)。昨年も全日本を走り6区区間5位だったが、自分の走りには納得していなかったといい、リベンジのつもりで臨んだ。27人が牽制(けんせい)し合い、1km3分を超えるスローペースで9kmまで進んだ。残り500mで襷(たすき)を取った選手たちがスパートし、嘉数もそこにつく。ラストスパート勝負となり日本体育大学の平島龍斗(3年、相洋)がトップで中継所へ。嘉数はわずかに及ばなかったものの、2秒差で青木瑠郁(3年、健大高崎)につないだ。 2区を引っ張ったのは青山学院大学の鶴川正也(4年、九州学院)と、青木と同時にスタートした創価大学の吉田響(4年、東海大静岡翔洋)。ハイペースでの進行に青木は次第に離され、2区終了時点では暫定6位、トップとの差は54秒に開いた。3区の辻原輝(2年、藤沢翔陵)は前田監督から「攻めていけ」という指示をもらい、絞り出す走りで区間3位。順位も3位に上げ、トップとの差は35秒と縮まった。 4区の高山豪起(3年、高川学園)は「100点満点の走りではなかったが、チームのことを考えたらしっかりと走ることができた」と振り返る通り、区間4位でしっかりとまとめて順位をキープ。しかし青山学院大のエース・黒田朝日(3年、玉野光南)が33分03秒と、従来の区間記録を13秒も縮める爆走。トップとの差は再び1分27秒に開いた。 青山学院大がこのまま先頭を走り続けるのか。そう思われたレース展開となったが、今年の國學院はこれまでとは違った。5区の野中恒亨(2年、浜松工業)がぐんぐんと前を追い、城西大学の林晃耀(4年、いわき総合)をとらえて2位に上がると、区間賞の走りで青山学院大との差も一気に41秒に縮めた。 6区で襷を受けたのは、副キャプテンの山本。走り出すと、時折右脇腹を気にするしぐさもあったが、スピードは落ちることなく、青山学院大の白石光星(4年、東北)の姿がどんどん大きくなってくる。従来の区間記録を14秒更新する36秒47の区間新記録で、同級生でキャプテンの平林との襷リレーが実現した。 平林のところで勝負が決まるのではとも思われたが、4秒前を行く青山学院大の7区は太田蒼生(4年、大牟田)。太田は3kmを8分10秒で突っ込み、平林は10秒ほど離された。15km手前で平林は太田に並んだが、太田は平林を前に出させない。最後は太田が前に出て、平林より4秒前でアンカーにつないだ。太田と平林は同じタイムで7区を走り切った。 アンカーを任せられたのは上原琉翔(3年、北山)。スタートしてすぐに青山学院大の塩出翔太(3年、世羅)にぴったりとつき、そのまま9kmまで進んだ。1kmのラップが3分まで落ち、上原は塩出と並走していたが9.5kmすぎで塩出の前へ。そのまま差を広げ、初優勝のゴールへと飛び込んだ。 前田監督はレース後の会見で、「國學院らしい全員駅伝の勝利かなと思います。誰かだけが頑張ったわけではなく、3区の辻原しかり、6区の山本しかり、最後の粘りで次のランナーが走りやすい位置で襷を渡せたこと。自分だけじゃなく、次のランナーのことを考えて1秒を大事にする、振り絞る。縦も横も風通しもいい関係でできた結果が表れたんだと思います。8人の総合力で日本一になれたのではないかなと思います」と、チーム全員でつかんだ勝利だと話した。